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少女、北の守護神と出会う [ 16/41 ]


 人が齎す厄なら人災だが、神が齎す厄は神災か? 正直、関わりたくないと思ったのは言うまでもない。
 夜の帳が下り、金色に輝く満月が天に昇った頃だった。物の怪とは違う真冬の空を思わせる冴え冴えとした気配に私は覚醒した。
 隣で寝ていたはずの昌浩が、目を覚まし私の顔を覗き込んでいたのだ。
 昌浩なのに昌浩じゃない。気配は、物の怪と同種のもの。恐らく、どっかの神が憑依したと考えるべきだろう。
 私は、そこまで考えモゾモゾと布団に入り直しニ度寝を決め込んだ。
「私に気付いていながら寝ようとは良い度胸だな」
 尊大な物言いと大人びた顔をしている昌浩に、私は物凄く不機嫌な顔で彼に憑依した神と対峙した。
「それは、失礼致しました。随分と神格の高いお方とお見受けいたしましたので、ただの小娘に用などあるますまい。晴明様か、はたまたそこにいる神将に御用があるのかとてっきり思っておりましたので」
「面白いな。私に気付いておきながら狸寝入りを決め込もうとするとは、晴明並に狸だな。で、神将。こいつが昌浩の嫁か?」
 ニィッと人を食った笑みを浮かべる昌浩に、物の怪はハァと大きな溜息を吐いている。
「違う。居候だ」
「何だ詰まらん」
「それよりタカオカミノ神、何しに来たんだ」
「晴明が気に掛けている人間を見に来ただけだ」
 私を目の前に失礼なことを宣う高淤神に、物の怪だけでなく私までも脱力する。
 妖怪もこんな感じだけど、神様までがこんなにフリーダムとは大丈夫か?
「年頃の男女が一つの部屋で寝起きしているんだろう。契りを交わせよ」
 そう言いながら押し倒さないでほしい。昌浩も高淤神に憑依されているのに何で気付かないんだろうか。
「……キンタマ蹴り上げますよ」
「別に構わんが、痛みで泣くのは昌浩だぞ」
 シレッと言い切る高淤神に、私は底意地の悪さを垣間見た気がした。
「物の怪、タカオカミノ神様を何とかして」
「無理だ。諦めて付き合ってやれ」
 早々にお手上げ宣言する物の怪に対し殺意が沸いたが、私はこの状況をどうやって切り抜けるか頭をフル回転させた。
「……タカオカミノ神様」
「高淤で良いぞ。呼びにくいだろう」
「じゃあ、遠慮なく高淤神。意識の無い状態で押し倒したとしても面白くもありませんよ。どうせやるなら……」
 高淤神に内緒話をするように耳打ちする。私の提案を聞いた高淤神は、フムッと考え込んだ後、凄く良い笑顔を浮かべ了承した。
 いそいそと単を脱ぎ捨て褥に入る。私も単を脱ぎ全裸になると、昌浩の褥に入った。
「藍、お前何やってんだ!!」
「昌浩に尊い犠牲になってもらうの。高淤神には、昌浩が二人全裸で寝ている事実に驚愕した後、高淤神に憑依された事実に愕然する姿を高みの見物で楽しんでもらうのよ」
 ここで押し倒されて貞操が危うくなるより羞恥心を堪えて一晩過ごした方がマシ。どうせ、物の怪と昌浩には全裸を見られているのだから今更である。
「……鬼だな」
「何とでも言いなさい。昌浩より、貞操を優先して何が悪い」
「私は、どっちでも愉しければ良いけどな」
 一番鬼畜なのは、高淤神だと思うのだがそれを口にするような愚かなことはしなかった。
「朝が楽しみだ。長居をしては、これの身体に負担が掛かる。ではな藍」
「ええ、そうですね。また、お逢いしましょう(会いたくないけど)」
 社交辞令を交わした後、フッと神気が天を登る気配を感じた。その瞬間、昌浩の身体がぐらつく。慌てて彼を受け止め褥に寝かせてやる。
「お前、本当にその姿で一緒に寝るのか?」
「そうしないと、高淤神が納得しないでしょう」
 私は、ファァと大きな欠伸を一つ噛み殺し褥の中へ潜り込んだ。素肌が触れ合うのは、なんだか変な感じがするものの気持ち悪さは無い。
 私は、丁度よい温度にいつの間にかうとうとと寝入ってしまった。

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