SS

140~1000字前後のss。連作お題は終わり次第、加筆修正して短編に。[お題]にせごり様※スマホ閲覧推奨

「優しいでしょう下心があるものは」海賊(赤→青)

 いつもに増してやる気が出ずに、クザンは机に広がる書類を見ながら頬杖をついて呆ける。昨日は前から想っていた女性と食事を出来るはずだった。呼び出しさえ無ければ。多少の己の部下が対処できる事であればそのまま、のらりくらりとはぐらかしたのだが呼び出しに来たのは同僚であり同じ大将の名を冠する"赤犬"サカズキ。こいつが呼びに来ると言う事は余程の事態、もしくは危機迫った状況では無いがお偉い方との退屈な接待のどちらかである。どちらにしたって頭に糞が2つ位つくと言ってもよい真面目な男がクザンの怠慢を逃すはずがない。漸く漕ぎ着けた久々の食事だったのに泣く泣く断りと謝罪を入れたら埋め合わせをさせて貰える機会すら与えられず振られてしまった。最後に苦笑いをしながら「他にお似合いな人がいそうだわ」と、黒い髪を靡かせて。忙しい中でも小まめに連絡をして本当に久々に身を入れた分だけダメージがデカい。下らない貴族に邪魔された分だけ腹立たしさも。もう幾度目かの深い溜息を吐き出したと同時にクザンの執務室扉が開かれ、あの日駄々を捏ねるクザンを引き摺り仕事へ連れ戻した糞糞真面目男が書類片手に入ってきた。
「クザン、わりゃ先日の報告書じゃが…なんじゃその腑抜けたんわ。」
「うるせぇな。仕事はしてるでしょ。」
これ以上触れられたく無くて仕事の話を促すがサカズキは少しの間を空けて机の上に持ってきた書類を置いた。其れを横目に見ながらボケっとしていたら少し乱暴に頭を撫でられた。え?何が起こった?脳味噌が処理しきれなくてサカズキの顔を座ったまま見上げれば見た事も無い優しい顔をしていた。普段厳格かつ険しい表情の為気付かなかったが緩められた分整った顔立ちと余計に柔らかな表情に見えた。クザンは気付いた瞬間腹の底から意味不明な恥ずかしさを感じた。じわじわと顔もなんだか熱いと思っていれば頭を撫でていた手がゆるりと頬に添えられて覆いかぶさるようにサカズキが体を屈める。かさついた唇がクザンの唇に押しつけられ、甘く食まれる。余りのことに舌が這ってくるまで固まってしまったが湿った感触に肩が跳ねて必然的に距離が空いた。
「ここにサイン書いて修正しときんさい。」
そう言って部屋を後にするサカズキに何も問えず、扉が閉まった音と共にクザンは机に突っ伏した。忙しない心臓が信じられなくて顔を覆った。
2022/09/23

「望んでしまった結末が痛い」海賊(赤青+黄)

 頭に血が上った時など碌に言葉を選ぶ余裕はない。其れを冷静に理性的に御する事を大将としての立場上、必要な能力ではあるが事2人ともお互いに置いては中々に難しい所業であった。赤犬と青雉は軍内でも最高戦力として、そして犬猿の仲としても有名である。三大将の黄猿はどっちつかずの正義を掲げていることからも分かる通り仲裁も度が過ぎなければ手を出さずに笑って放置する。またやってんなぁと、言い争う2人を遠目から眺めていた黄猿は少々様子が可笑しい同僚に内心首を捻った。あの赤犬…サカズキが顔には出さずに焦っていた。相対する青雉…クザンは普段の飄々とした様子から想像もできない程に切羽詰まっている。流石に止めるべきかと2人の皺寄せが良く来る黄猿は愉しむ為に下ろしていた腰を上げる。が、面倒方に巻き込まれたくなかったのなら一歩出遅れてしまったらしい。その場にサカズキだけを残してクザンは踵を返してしまった。平時、正義を堂々と背負う背筋が緩く丸まっている置いていかれた男に声をかける。
「サボれち、言われたんじゃ。仕事を怠ける訳にはいかん。普段からサボっちょるアイツにそこから言い合いになって…」
「あ~…そぉなのぉ。」
この男にその言い回しでは伝わらないが、何をしたかったのかは理解したし、いつもの様子と違う理由も把握した。用は、この真面目一貫の頑固者が下にも気を回して率先して休める時は休めばいいだけの…恋人との時間や、心配を汲んでやれと言う話だ。
「この間、仕事回されすぎて点滴受けたじゃなぁい?」
あの赤犬が!?と激震が走りに走ってどこで捻じ曲がったのか危篤重症にさせられた言を遠くに出張していた青雉にも伝わった。黄猿の電々虫があまりに鳴り響く為苦手な其れに手を伸ばし、奇跡的に対応できた黄猿は文句を言おうとしたが…。
『ぼる、さりーの…サカズキが、サカ…どうしよう。』
確か出張前にどデカい海軍内に響き渡る喧嘩を繰り広げていてその際に"へまして重傷になっちまえ"と言っていた。その時は腹抱えて笑ってやるとも…現実は全く真逆の反応だったが。一先ず、目の前で様子が違うクザンに対して調子を狂わされ、心底参っているこの頑固者にあの弱りきってしまった当時の話を聞かせてやろう。背中を蹴り出すのはその後だ。
2022/09/22

「もう少しそばへ」海賊(赤青)

 寒い、と呟く男の背中にクザンは、おや?と首を傾げる。生真面目が服を着て潔癖を愛する同僚とは性格から能力まで正反対であった。不倶戴天である相手の温度が意外に心地よいと知ったのはいつからだろうか。確かなきっかけはとある任務で、クザンが相手を庇い大怪我をした時だった様な気がするし、その時間から暫くした後の居酒屋で飲んだ時だった気もする。"正義"を掲げる中に含む認識、形、目指すべき道の過程は全くもって分かり合えないがそれ以外の小さな事柄は意外な程に馬があった。こんな事ならもっと早く酒でも2人で飲みに行けば良かったと、気分良く酔っ払い男の肩に頭を預けた事をよく覚えている。クザンはヒエヒエの実を食べた氷人間である為、熱いものがめっきり苦手だった。男…サカズキの能力はまさに本人の性格も相まってうんざりする程の熱気だと思っていたから、予想を裏切る体温に凄まじく好感を持ってしまった。酒を飲むと体温が上がる事もあり、クザンよりも微かに涼やかに感じる肌に頬をつけたくて首筋に擦り寄った。素面であれば鳥肌もの…いや思い出しても自分自身で吐き気がするほど気色悪く正気を疑う行動に何故かサカズキは気に入ったらしく。普段怒号を響かせるがその実薄くて、閉じていれば小さめな唇をもった男は、クザンの厚めの唇に食らいついてきたのだ。何が起こったのか分からないまま、その心地よさに実を任せ…。
「おい、何アホ面さらしちょる。」
意識を過去に飛ばしていたら不機嫌そうに声をかけられた。声音に拗ねた色が乗っていると幾人が気づくだろうか。今はクザンの特権である。しかし、アホ面との言葉は癪なのでもう少しばかりサカズキの可愛い一面を突いてやることにする。
「さむいなら俺に近付かれない方がいいでしょ。」
「…お前の低い体温でもくっ付いとったらまだマシじゃけぇ。」
「カイロもってるよ、俺。あげよっか。」
にっこり笑いながらポケットを探ると、痺れを切らしたらしいサカズキはクザンの腕を取りひと回り大きな腕の中に仕舞い込んできた。熱い腕の中でつい、ほぅ…と息を吐いて身体の力が自然と抜けてゆく。お前も寒かったんじゃろうが、と文句を言う男の不器用な甘えと気遣いにクザンは小さく笑いながらその背に腕を回した。
2022/09/21
new | old
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -