SS

140~1000字前後のss。連作お題は終わり次第、加筆修正して短編に。[お題]にせごり様※スマホ閲覧推奨

「ものや想ふと」海賊(赤青)

※パンクハザードでの2人


 好きだなと思った。
左脚を焼き裂かれ、右肩も焼かれた状態でふと心に浮かんだ。
こんな時に何を考えているのかと呆れながら、けれどこんな時だからこそ気付けた…漸く認められたとも。どうしてもお互い譲れなかった、受け入れられなかった。それでもそんなまっすぐで自分自身すらも燃やしながら歩く男が堪らなく、愛おしかった。いや、愛おしいのだと。地面に膝をつき、ボロボロになりながら目の前に立つ同じく酷い有様の仏頂面の男に、顔が緩んでしまう。己とは真逆に顔を歪めて…なんだか泣きそうな男に益々笑みが浮かんでしまう。お互い馬鹿だなと思うが、これが最良であった。もうこの時この場所以外で交わる事はないだろう。予感ではなく確信としてわかってしまう。それでも、不思議と後悔はない。
片足だけの状態だが、最後の力を振り絞りよろけながらも立ち上がる。氷はもう作り出せない、格好は付かないが片足跳びで近づくかと思案していると、彼方から歩いてきた。目の前まで来ると止まり、ゆるりと固まっていない腕を持ち上げ頬に掌をあてられる。優しく、余りに柔らかに親指で撫で上げられてその手に擦り寄ると、ひくりと男の手が震えた。
微かに隙間が空いた手を離れない様に、腕を持ち上げてそのまま頬に押さえつける。手袋のない掌はマグマの能力を持つ割には冷たく、クザンの体温よりは暖かい。

「さかずき。」

男の名を呼ぶ。
生きてきた中で一等大切に、大事に言葉を紡いだ。男は頬の手はそのまま、固まった腕を無理やり溶かして傷もお構いなしに、クザンの背中に回わして身体を抱きしめた。耳ともで震える息が、心臓の音がまるで泣いている声の様だった。
酷い事にクザンはその様が嬉しいなんて思ってしまい頭を目の前の肩に預けて力を抜いた。この腕の中で焼き尽くされたとしても、きっとそれは優しい温度で苦しまず灰にしてくれる筈だ。疲労と蓄積されたダメージに段々意識が白くなってゆく。途切れる間際、さらに強く抱き込まれ掠れる声で名前を呼ばれた気がした。


とある島で想いと別れを交わした男達がいた。けれど、それは当人達しか知り得ない事だった。
2022/09/26

「とろりとまるい石を踏む」海賊(赤青)

「好き…なんだけど。」
「ほうか。」
そんなやり取りで何となく付き合う事になった。多分。何年も何年も燻っていた想いをこのまま一生拗らせたままにするよりも、さっさと跡形もなく砕けて終えと思い立った末のクザンの行動。振られないなんて想定していなかったので現在執務室で頭を抱えている。
「ここわっしの部屋なんだけどぉ」
言外に鬱陶しいとボルサリーノに告げられるが聞かなかったフリして流した。唯一クザンの想いをずっと知っていた同僚兼先輩。
「いや本当どうしたらいいよ?俺」
「普通でいいんじゃないかなぁ。」
「いやだってあのサカズキだぞ?普通って…いやぁ。交換日記とか?」
「どんだけ硬いと思ってるの。あいつも世間一般の男とかわらねぇよぉ。」
世間一般のお付き合いならそうだが、クザンは男であちらも男。デートなんて今更する様な間柄じゃないし正直はっきり交際しているかも微妙なのだ。
「こんな事なら振られたかった…」
「滅多な事いわねぇでくれるぅ?」
「滅多な事ってなに」
「面倒くさい事になるからって事ぉ~」


ぐてぇっと、ソファに寝そべるクザンを見ながらボルサリーノはやれやれと肩を竦める。あの堅物そうな見た目をした同期の心のうちを告げてやろうかと思うが、そうすれば意外と臆病なこの年下は逃げ出すだろう。堅物で不器用と思われがちな同僚はその実とんでもなく頭がキレる。普段の言動で直情的と勘違いされるが海賊を追い詰める時も裏の裏まで作戦を考えるし、あれでいてクザンやボルサリーノよりも元帥に認められるほどなのだ。しかも一度狙いを定めたら何処までも追い詰め牙を突き立て捕まえるまで止まらないときた。そんな男に何年も掛けて罠をはられ、見事に落っこちた可哀想な年下の同僚には悪いがボルサリーノとてあの同期に恨まれるのは面倒くさい。ので、このまま生贄になってもらおうとニコニコ笑って「とりあえずサカズキの部屋行って会話だけでもしてきたよぉ」とサカズキ当ての資料を手渡した。
翌日、青雉の姿が見えず赤犬の機嫌が良い事から大方予想通りの展開になったらしい。
2022/09/26

「フィナーレはいつも明日に」海賊(赤青)

 飯を食べている時、下らない談笑で笑ったり、街中で手を繋ぐ親子を見かけた時、そして何より…穏やかな横顔を眺めている時。クザンはいつも息が止まって心の臓が潰れてしまうと錯覚する。それが今まさに目の前で全て起こってしまった。悲しくもないのに泣きたくてどうしようもないが、いきなり街中の海軍御用達、食事処でいい歳したガタイの良いオッサンの片割れがそんな状態になれば、悪目立ちをする。特に海兵で大将として知られているのであれば尚更だと瞼を閉じて力をいれて耐える。クザンの様子に訝しげに声を掛けるもう片割れのオッサン…同じく海兵で大将のサカズキの声にいつも通り軽口で答えるが声は震えてしまっていた。情けないと思いつつも、仕方ないじゃないかとも思うのでどうか見逃してくれと無様に笑った。
_______ 

サカズキには苦手なものがある。自覚はあるが融通が効かず人と良く衝突するし、外見のせいで子供に怖がられるし、基本好き嫌いはないがどうしてもチーズは好きになれない。が、出来ないことは無いし何処かしらに解決策や改善策はある。唯一手も足も出ず、途方に暮れてしまうのは、クザンの満ち足りた顔だ。満足…なのだから笑ってはいるが、眉はハの字に曲がり泣くのを誤魔化すかの様に引き攣る口角を上げる。瞳は嬉しそうな色を宿しているのに悲しみにも揺れていて、大抵その顔をする時は何気ない…本当に何気ない"普通"に触れている時に。2人で安い食事をし、下らない言葉を交わし、平和な人々の光景を見ていたり。そう言う時にサカズキだけに見せる顔だった。今この瞬間が堪らなく幸せなのだとサカズキよりも体温の低い掌が、ゆるりと触れて伝えてくる。伝えられるたび思うのだ。終わりを見ないで欲しいのだと。人はいつか皆終わる。そんな当たり前が他人より直ぐ側にあるし、きっとこの瞬間が永遠に続けばと考える恋人に共感がなあ訳ではない。が、サカズキは色々な表情が見たいのだ。変わらぬ永遠よりも変化してゆく様々な様子を、日々を目の前の男と歩みたい。悲しみや怒りも。何より馬鹿みたいに笑う顔が好きなのだ。だから、そんな明日が終わりかの様な顔をする…幸せを怖がるクザンがとても苦手だ。
「何よ。穴開きそうなんだけど。」「…こん後はまだ仕事のこっちょんか。」
どうだったかなと首を傾げるクザンに確実に仕事は残っているとは思いつつ、連れて帰ると決めた。
「え、どうしたの?らしくないじゃない。」「偶にはな。」
2人のフィナーレはまだ当分先なのだから、そんな顔している暇はないと教えるために。
「わしゃ、恋人は甘やかすほうじゃ。」「………ぅ、…ちょっ、と。キャラじゃ、ないじゃん。」
真っ赤になるクザンに愉快になって笑った。そう言う顔をしとけあほんだら。
2022/09/26

「燃え盛り、尽きてしまえばいいものを」海賊(赤←青)

 珍しいものを見た。沢山のファイルが詰め込まれ、埃が積もる海軍基地内の倉庫。クザンからすれば絶好のサボりスポットであり、皆から煙たがられる資料の墓場。クザンよりも高い棚が所狭しと並んでおり、奥の暗がりは寝転んでしまえばまず目につかない。そこへ本日も休憩と称して寝ていたクザンの耳と目に入り込んできた2人の人影。その内の1人は飽きる程見たことがある同僚。ワインレッドのスーツの上から白のコートを肩に纏う"赤犬"。
『好きなんです』そう赤犬に告げるのは彼よりも小柄で細い女性事務員。確か海軍内ミスコンテストで一番に選ばれていた。2回りも年下の子にねぇ…とこの後クザンはサカズキを茶化す事を決めつつ棚の影から2人の様子を窺っていればサカズキは顔色一つ変えずに断っていた。まぁ、予想通りの反応だがその後に続く言葉に瞠目する。
「好いちょるもんがおる。」
うわまじかよ。いや、まじだろう。冗談でもあの糞真面目な男がこの手の言葉を言うはずが無いのだから。ズキリ、指先が痛んで思わず手を確認するが何も無い。自然系の体は床で多少擦り傷を作ろうと傷付くはずはない。なのに先ほどのはなんだとクザンは首を傾げる。不思議な己の状態に気を取られていたらいつの間にか2人とも居なくなっており、やけに静寂な空間が居心地悪い。落ち着かなくて、仕事に戻る事にしたが決してサカズキが気になったとかではない、と誰にとも知らずに内心言い訳を述べる。戻る最中そこかしこで先の事が広まっておりいつもであれば聞き流せる事が耳に付く。つい、目撃していたのに近くの海兵へ声をかけ何事かを聞いてしまいあの"赤犬"にと言う事でそこかしこその話題でもちきりだと言う。好きな、人。やはりその言葉が引っかかる。
「クザン」
ぎくり、肩が跳ねて固まってしまう。件の人物が廊下の向こうから歩いて来て…と、認識した瞬間クザンの体は勝手に反対側へと動いていた。逃げる間際、唖然としたサカズキの顔が見えたがクザンだって自分の行動に同じ反応をしたい。無我夢中で逃げる最中「また喧嘩だぁ」と青褪める海兵の幾つもの声が聞こえるがなんだか都合がいいので放って逃げる。
島の端まで逃げてきて漸く足を止めた頃には久々に息が上がり、ペタリと地面へ腰を下ろした。気づきたく無かったがとっくに自覚してしまった想いに頭を抱える。
ずっと昔からあった其れ。なんで今更、クソッタレ。逃げ続けて墓まで持っていくつもりだった。いつの間に追いつかれてしまったのか。逃げられないならどうにかして燃え尽きて灰に出来はしないだろうかと考えて、マグマの様に熱い男を関連して思い出してしまう。
「あぁ、もう…勘弁してくれ」
今日のはじめからなかった事にはならないだろうかと詮無い事を考える。
身動きの取れなくなってしまったクザンに燃え盛るその男が直ぐそこまで来ていた。
2022/09/26

「朧月の優しい光」海賊(赤→青)

※微かに前回の続き
 ここ最近で特に大きな事後処理を終えて漸くサカズキが帰路につく頃には、月が頭上に煌々と輝いていた。皆家に帰る暇もなく海軍基地内に缶詰となり、元々デスクワークが得意な訳ではないサカズキも少しばかり参っていた為ホッと息をつく。肩を回しながら戸締まりをし、月明かりが照らす廊下を歩いていると"青雉"を関する同僚が同じ様に帰路についていた。声を掛けると肩を微かに跳ねさせ軽く返事を返してきた。その様子に微かに口の端を持ち上げる。普段であれば減らず口を叩いてくるのに黙って己の隣を人一人分開け、並んで歩くクザンの唇を奪ったのはつい先日の事だった。元々女好きで軽い印象を持たれがちな男だが、その実相手に想いを真っ直ぐに抱く誠実な恋をする。普段の言動で台無しだがそれを見抜いていた女性と食事をすると自慢していた日に、心底下らない食事会がタイミング良く入ってきた。転がり込んできた機会を有効に活用すれば、翌日振られたらしいと出勤時から耳に入り、急ぎでもない仕事を携え突撃した。アプローチをしても気付かない、下手をすれば互いの信念の違いで喧嘩も多いからこそ上手く伝わらなかった好意。我慢も限界だった為あからさまな行動に移した。反応は見れば上々だ。クザンは唐突な事だと戸惑っているようだがサカズキからすれば漸く意識したかという思いで一杯だ。
「あの、さ。あー、えっと」
「飯」
「え?」
「忙しゅうて食えてなかったじゃろ」
「あ、あぁ。そうだな。…どっか開いてたかな」
クザンは考える時に唇を良く触る。サカズキよりも細い指が厚い唇を触る光景に無意識に目をやってしまう。
「家、来るか。」
あの日の感触が思い出されてつい今日は言うつもりの無かった言葉が出てしまった。意識したとは言え焦りすぎたかと舌打ちが出そうになったが、月明かりにクザンの真っ赤になった顔を見て返事を聞く前にその手首を捕まえた。
2022/09/24
new | old
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -