ししあさ
つまさきに落とされた、かさついた唇の感触に、自分の中の何かがざわつくのを感じる。ぬる、と赤い舌が自分の肌を這うのを、どこか他人事のような心地で眺めながら、確かに自分は昂っていた。 志狼さん、と呼んだ声が酷く掠れていて、それがなんだかおかしい。応えるようにこちらを向いた金色に、捕えられるような錯覚を覚えた。首輪を嵌めて、そこに繋がるリードをこの手に握っているのは確かに浅葱自身の筈なのに。 詰まる息を誤魔化して、悪戯に口角を上げて見せる。虚勢だ。けれど、ばれていようがどうでもよかった。このプレイを楽しむための、ポーズを崩さないためのそれだった。
「そっから先は、おあずけ、っすよ」
殊更にゆっくりと紡ぎながら、右手に絡んだままの赤いリードを軽く引く。ほんの少しだけ不満そうな色をちらつかせた宍村は、骨と筋肉の浮いた細い足首に軽く歯を立てた。 ぴり、と走ったのは、痛みなんかではなく。
それは確かに、甘美な背徳が背筋を這った瞬間だった。
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