教えないこと、知らないこと。

緑空へのお題は『器用なのに言えない私と、不器用だから気付かない貴方』です。
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 繋がれた手をぼんやりと眺めてから、視線を上げる。目線よりも少し高い位置にある耳が赤くて、内心にいとしさが溢れてくる。
 そらきさん、と、声に出さずに口のなかでつぶやく。
 そんなふうに照れてくれるのは、こうして手を引いてもらえるのは、まだあなたが僕を、特別に思ってくれているからだと。自惚れていても、いいでしょうか。

 普段は無駄に自信満々なくせに、こういうときばっか怖じ気づいてんじゃねぇよ。
 いつだったかあなたがそう言ったときに、僕がなんと返したかはよく覚えていないけれど、ただ、少しだけ安堵し、少しだけ、胸が痛んだことは覚えている。
 いつだって、あなたに捨てられるのが怖くて、怯えていること。それがばれていなかった安堵と、なんとなく、騙しているような罪悪感。

 あなたは不器用なひとだから、僕が言わなきゃきっとなにも知らないままで居るでしょう。僕は自分でも器用だと知っているから、このまま隠すことは容易いでしょう。
 けれど、こんな不安を飼い慣らして、あなたのそばに、僕はいつまで居られるのだろうか。

 いつ終わりが来るとも知れない関係を、それでも手放せない僕は、今日も不安を吐き出すかわりに愛を囁いて、また赤くなるあなたを見ては、ああ、まだ大丈夫だと、すこしだけ安堵するんだ。
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