01

「ねぇ、」

 俺、明木慧(アキラギ ケイ)が風呂上り、髪を拭きながら入った部屋の足元から、声がした。出所はわかりきっているから、無言で続きを促す。
「今日、良い?」

 その言葉に、冷蔵庫から出してきたアイスにスプーンを突き立てて、振り向いた。
 ちゃっかり炬燵の中に潜り込んで、あ、こっち見た。と言い笑うのは、中学からの付き合いである、灰谷澪(ハイタニ ミオ)。

「良い?って……。……あえて聞こう、何がだ?」
「やだなぁ、解ってるくせに。」
 ぱっと見女にも見えそうな顔立ちに、低い背と細い身体。人の良い笑顔を浮かべるとすごく可愛い。が、そんな容姿とは裏腹に、

「今日、ヤらせてよ、慧さん♪」

 こいつは“タチ”だ。
 まぁ、もともと俺達は二人ともノンケなんだけど、付き合い出してからが長いだけに、そういう言葉を用いることが多くなった。
 因みに、俺が高2、澪が高1の時に付き合い出して、現在それから三年が経過している。

「……勘弁してくれ。昨日レポートの所為で寝てないし、明日も学校なのに。」
「そんなの関係ないよ、休んじゃえば良いじゃん。」
「あのなぁ……。お前と違って俺は成績やべぇの。わかれ。」
 必死にかわそうとするが、
「……僕のこと、嫌いなの?」

……その容姿で涙目+上目遣いは卑怯じゃね……?!
「き……嫌いじゃ、ない、けど……。」
「じゃぁ、良いでしょ?」
 そう、かも知れない、けど、さ……。
「で、でも……」
「でも?」
 まだ渋る俺に、澪は問う。
「……灰谷、結構きついことすんだもん!痛いのとか嫌だ!」

「…………。」

 ぶっちゃけたことを言ったら、澪の目が鋭くなった。
 うっ。睨むな、怖いだろ!
「……慧さん。」
「な、んでしょう。」
「もっかい聞くよ?」
「う……っ。」
 思わず敬語になる俺に、澪はにっこりと笑って口を開く。

「 嫌 な の ? 」

「……〜〜ッ!……腹、括らせていただきますっ……。(半泣」

 畜生、年下にも勝てないなんて!情けないな俺……。

 寝室に来て、ソッコーでベッドに押し倒された、が。

「……っ!やっぱヤダ怖い怖いこわい!!やめようぜ?!」

 怖気づいた俺。流石にイラついたらしい澪とベッドの上で必死の攻防を繰り返す。
「往生際が悪いよ慧さん?大人気ない……。」
「いやいやいや、誰だって掘られんのは嫌だろ!何回ヤられても慣れねぇし!」
「なんでそう、これからヤるって時にムードないこと言うかな……!」
「ヤられたく、ねぇから、だよ……っ!」
 ぎりぎりとお互いの手を掴んで押し合う。が、必死の抵抗も虚しく、直ぐに攻防戦は終わりを告げた。

「……えいっ。」
「っ?!」
 目にも留まらないほどのスピードで、澪は俺の両腕を縛り上げた。
 しかもそのままベッドに括りつけてるし!
「な、どっから出したんだよこんなもん!!」
 両腕を縛っている縄を指してそう言うと、澪は平然と、にこにこ笑顔で答える。

「備え有れば憂い無し、って言うでしょ?」

「……ッ、答えになってねぇえ!っつーかそんな備え要らねぇだろ?!」
 じたばたと抵抗するも、流石に両手を封じられては出来る抵抗も格段に少なくなる。
「いやいや、こういうことがあるから結構要るよ?」
 にこにこ、澪は終始笑顔。寧ろ怖い。
 つか、“こういうこと”は無くて良いから!
 そう叫ぼうとした直前、口を塞がれ、物凄く近い澪の顔に、嫌でも心拍数が上がってしまう。


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