暴走編 | ナノ
「どうしてこんな事になった?」

ジャン・キルシュタインはその日、立体起動を用いた実践の訓練に参加していた。
訓練生時代にもやっていた事だ。
各々が、己の技術を磨くべくスコアを競って跳び進めていく。
採点するのは教官でなく仲間だが、それは白熱した戦いだった。

本日最後の訓練にさしかかったその時。
ジャンは迫り来る影を見つけた。


「なんだ…?」


凄まじいスピードで、何かがこちらへやってくる。
木から木へ。ただ早さだけを求めたような、立体起動装置を使った移動だった。

ざわざわと、ジャンの視線に気づいた周囲もざわめく。
そうしている内に、目にも止まらぬ速度でその人物が通りすぎていった。

ジャン達を気にした様子はまるでない。
残像だ。
顔すら窺う事は出来なかった。


「おい…今の誰だかわかったか?」

「俺たちの班じゃないな…って、また来るぞ!?」


二人目だ。
先程の人物を追ってきたのか。
そちらも尋常ではないスピードだったが、さっきとは違い待ち構えていたせいだろうか──その人影がリヴァイ兵士長だと認識出来たのは。


「兵士長…!?」

「兵長がなんでこんな所に!?」

「なんだってんだ…!?」


さすがとしか言いようがない。
自分達では追い付く事など出来そうにないスピードで、人類最強のリヴァイ兵士長が過ぎ去っていく。
どうすれば、あのスピードで目標を誤らずに進んでいけるのだろうか。

最早訓練どころではない。
突然の出来事に混乱が伝染する。

ジャンも驚愕に固まっていたが、ふとあることに気が付いた。


──兵長は一体誰を追っていたんだ…?





***




「………兵士長と分隊長がこんな様では、示しがつかないと思わないか?」


エルヴィンが深く息を吐き出す。
そのままガクリと力尽きてしまいそうな程、その声音に力はなかった。


「調査兵団の主力二人が立体起動を無断使用し、尚且つガスが切れるまで本気の追いかけっこ……これをどう説明すればいい」


エルヴィンの前に立つ二人は、それぞれ無言のまま目を逸らしている。
気まずそうに虚空を眺めるその瞳は、言い訳のしようがない事を如実に物語っていた。

流れる沈黙。
心労に崩れかけるエルヴィン。


「………どうしてこんな事になった?」


その団長からの切実な問い掛けに、リヴァイとナナシは揃って口を開いたのだった。




***



「お…おい…リヴァイ兵士長とナナシ分隊長がまだ走ってるぞ…」

「なんであの二人が…?」

「もう五時間過ぎてるぞ…」

「新手の訓練法か?」

「なにがあったんだ…?ていうか、なにかあったのか…?」


ひそひそ、ざわざわ。
飛び交う声に、ジャンもそちらへ視線を向ける。
今日の訓練中に目撃したあの光景。
あれが関係しているように思えてならない。
すぐさま箝口令が敷かれた為に、あの場にいた者しかあの出来事は知らないのだが。

顔が見えなかったもう一人はナナシ分隊長だったのか。
それだけは判明したが、一体なんだったというのか。
事態はサッパリわからぬままだ。


「あれは…エレンか?なにやってんだアイツも」


離れた場所で同じように二人の上官を見つめていたエレンが、気まずそうに顔を伏せた理由もジャンには分からぬままだった。

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