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流星の欠片。
その力が暴走し初めた所までは覚えている。
ヘブンズゲートは確か、この力で不可侵領域となったのではなかったか…?
俺は参加していなかった戦争だ。
能力者たちが己で制御出来ない程に力を暴走させ、殺し合い、そして最後には何もかもが消え去ったという。
資料で読んだだけのそれ。フェブラリーが意味深に微笑みながら語っていたその内容。
それが、俺の目の前で。
仲間の手引きでゲート内には簡単に侵入出来た。あとはBK201よりも先に流星の欠片を入手する。それだけの任務だった。
何度か戦った事はあったが、いつも決着の着かない相手だ。それは今日も変わらなかった。
パンドラの研究室で、死神と対峙する。
投擲されたナイフをかわし、圧縮した重力を死神に向けて放つ。触れればただでは済まないそれは、ワイヤーで身を翻した死神の背後で壁に大穴を開けた。
どこまでも身軽な奴だ。
銃もきかない。刃物も弾く。その体やワイヤーに捕まれればすぐに放たれる電撃攻撃。
躊躇なく。容赦なく。死神の名に相応しい。
BK201の攻撃をかわしながら後退する。すぐに追ってはこない。タイミングを図り、一気に死神との距離を詰めた。ナイフとナイフがぶつかり合い、仮面越しにその目が合った。
「いい加減…ケリをつけたいものだな、死神」
「ディッセンバー…邪魔をするな…!」
「邪魔なのはどっちだ?」
いつもいつも。
どうしてこうも現場で出くわすのか。
ふと、近くで観測霊の気配を感じた。
水の気配。不気味な殺気。
「…っ!?」
気を取られた瞬間に、先程俺が開けたばかりの穴から建物の外へと蹴り出される。ガードはしたものの、勢いは殺せなかった。
地面に激突する寸前に重力を操作し、軽く降り立つ。
すぐに上を見上げるが、死神が追ってくる事はなかった。逃げられたか。
ゲート内にまでドールの探索が及んでいた。死神の仲間だろう。それは別におかしな事ではないが、あの不気味な気配はなんだ?
「…………」
考えても答えは出ない。流星の欠片は持ってはいないようだった。ならまだ、あの研究者か。
二人を探して施設内を巡る。
そうして見つけた先は、危険区域。
ニックとかいう職員とBK201の戦闘中に、『それ』は起こった。
おかしい。
暴走している。
自分の力が抑えられない。
目が眩む程の、ランセルノプト放射光。
まだ離れた位置にいる俺を巻き込みながら、ニックと死神の力が爆発的に膨れ上がっていく。
本物の星空が現れた。
ニックの体が縮み、
ロケットが飛び立つ。
茫然とそれを見つめていた黒の死神が、俺に気付いた瞬間に、はっと目を見開いた。
いつの間にか仮面は外れ無くなっている。
そんな素顔だったのか。
思っていた以上に若いな。
そんな観察をしている場合でもなかった。
声が聞こえない。
音がない。
俺の体が消え初めている。
見下ろした指先から。
ゲートの中では、対価と引き換えに失ったものを取り戻す事ができると聞いた。
ならこれは?
体が対価と言うのなら。
俺は何を取り戻すのだろうか。
BK201に向かって、最後の力を解き放つ。特大の、ブラックホールだ。流星の欠片によって高められた力はしかし、同じように限界まで引き出されていた奴の力によって呆気なく弾かれた。
電撃ではないのか?
奴の力はなんだ?
なんにしても、やはり強い。
残念だが、決着はまたいつか。
暗く渦巻く闇に呑み込まれるように、そこで意識は泥に沈んだ。
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