05
リヴァイ視点
マリア。
不可解そうにそう繰り返した男に、リヴァイは警戒を深める。
記憶喪失の人間が、壁外で生きていけるはずがない。なによりこの男は、巨人の頭に乗っていた。
ただの人間ではありえない。
先程巨人が不自然に倒れ込んだ事も気にかかる。まるで、不可視の力で地へと押さえ付けられ、動きを封じられてでもいるかのようだった。
その巨人の頭から、慌てるでもなく、恐れるでもなく。軽々と飛び降りた身のこなし。ブレードを持つ俺達を、警戒する素振りもない。
怪しむべき点が多すぎる。
「……記憶喪失だろうが、この際どうでもいい」
「いや、良くはないでしょ!?」
「ハンジ、てめぇも分かってるだろう。ここで悠長に長話してる余裕はない。…お前を拘束する」
「拘束?」
「ちょっ、リヴァイ、そこは嘘でも保護って言わない!?」
「嘘なんですか」
「いや、まぁ。でもいつまでもここでのんびり話してられないのは事実だ。ナナシ、あなたは襲われないのかもしれないけど、それがいつまで続くのかは分からない。巨人は人を食べる。私たちと一緒に来てもらいたい」
こいつを、エルヴィンの元へと連れていく。そうすべきだ。
幸い、馬の予備はまだ近くを走っている。大人しく従うと言うのなら、足となる馬を呼べばいいだけだ。
「…………一つ聞いてもいいでしょうか?」
「手短にならな」
「町はどちらの方角にありますか?ここからの距離は?」
「二つじゃねぇか」
「あっちだよ。距離は…三時間くらい走ってきたっけ?」
ハンジが大まかな方向を指差している。
ここからはもう、ウォールマリアの壁は見えない。
「なるほど。………なら、もういいか」
そこで、急に。
男の口調が変わった。
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