I miss you (アニ)
小柄な身体を抱き締める。
柔らかくはない。固くもないが。
筋肉で引き締まった、いとおしい身体を。
ちょっと、なんて声が聞こえてくるが、無視をする。
そのまま首筋に顔を埋める。いい匂いがした。
アニの匂いだ。
「ナナシ」
「何?」
「離れな」
「断る」
少しだけ冷たいアニの身体を温めるように、抱き締める腕にぎゅっと力を込めた。
聞こえる溜め息。
だが、引き離される事もなかった。大人しくしてくれている。
本音を言えば、アニからも腕を回してほしい所ではあったが……今はこれで十分だ。
本当に、十分だった。
「アニ」
「なに」
「会いたかった」
「…………」
「会いたかった、ずっと」
「……あぁ」
「帰ってきてくれて、有難う」
「…………」
震える息を、そっと吐き出す。堪えていたものが溢れ出すのを、止められそうにはなかった。きっとアニには、それだけですべて伝わってしまっただろう。
頷くような気配があった。
実際には、もぞりと頭が動いただけであり、身じろいだだけなのかもしれない。
返事はなかった。
その代わりか、暫くたった後に軽く二度。背中に触れる手があった。
離せという合図だろう。
それも、ひどく優しい部類の。
「……………………」
「ナナシ」
「……………………」
「……………………ナナシ」
二度目の声は、低かった。
それも無視していると、後頭部の髪を掴まれた。ぐい、と後ろに引かれて思わず仰け反る。
「痛い!ちょっ、アニ!?」
「離さないアンタが悪い」
「それにしても!」
解放されて、頭を擦る。
何本か抜けてしまったかもしれない。若干涙目になりながらもどう抗議したものかと考えていると、離れてしまった温もりが、それでもすぐ近くに立ち止まったままでいる事に気がついた。
「アニ……?」
至近距離のその瞳が、何かを逡巡するように揺れている。
僅かに伏せられた瞼。
何かを言いかけ、躊躇うように口を閉ざし。それでも視線を逸らさずにいると、意を決したようにアニは息を吸い込んだ。
「私も……会いたかったよ。ただいま、ナナシ」
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