巨人?
ユミルが、巨人だった…?

目の前で起こった事だというのに、俄には信じられない。
衝撃的というには、あまりにもその感情を通りすぎてしまっている。
まさか。
そんな。


「ウソだろ…ユミルまで…巨人に…」

「ユミル…」


コニーとクリスタも、呆然としている。
巨人となったユミルが、戦っている。
うなじに噛みつき、頭を踏みつけ。
面影なんてものは、どこにもない。
どこからどう見ても、ただの巨人だ。
鋭い歯。
後退した髪。
バランスの崩れた四肢。
見慣れた、見惚れた、ユミルの姿は、どこにもない。




好きになってもらえるような……人間じゃない。
そっちかよ。
まさか、そんな意味だったとは思いもしないだろう…!
どんな秘密だ!?

嬉しかったって何だ。
そんな、これで終わりのような…!


「ナナシ!?」

「お前、なにをするつもりだ!?」


外を見下ろす。



ユミルが戦っている。

一人で、あんな大勢を相手に。

いくらなんでも、そりゃあ無茶だ。
俺より成績がいいにしても、無謀にも程がある。


「ユミルを助ける……」

「やめろ、ナナシ!死ぬ気か!?」


死にたくはない。
そんなのは御免だ。
だけど、ユミルは……
ユミルを、死なせたくない。


「ナナシ…君は、知ってたの…?ユミルが巨人だったって…」

「知ってた訳ないだろう」

「私も知らなかった…いつも近くにいたのに…こんな…こんなことって…」


クリスタでさえ、知らなかったのだ。
一人で、こんな事を抱え込んで。
馬鹿なのはお前の方だ、ユミル。


「ユミル!!」


叫ぶ。
ユミルに向かって。


「考えるって言っただろう!?嬉しかっただけじゃ、返事にはなってないぞ!!」


守ると、決めていたんだ。
俺が彼女を守ると。
こんな所で死なせない。
こんな終わりは許さない!


「死ぬなユミル!!」

「そうよ!!こんな所で死なないで!!ユミル!!」


ユミルと目が合う。
俺とクリスタ。
確かにその視線が、俺たちを捉えていた。
異形の姿になってもなお。
その心は、ユミルのままだ。

守らなくてもいい。
俺達を守って死ぬくらいなら、そんな事はしなくていい。


ユミルが、城壁に手をかける。
今にも崩れそうだった搭のバランスが。
完全に、崩壊を始めた。


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