たとえばの選択(ハンジ)
「ハンジ」
「んー?なんだい、ナナシ?」
鼻歌まじりに顕微鏡を覗き込んでいるハンジに呼び掛ける。
返事はあるが、意識はまだそちらのまま。モブリットが何故か申し訳なさそうに俺を見ている。
まぁ、いつもの事だ。
気にするほどの事でもない。
「一度聞いてみたかったんだが…俺とリヴァイ、どっちが好きだ?」
ガツッ!!と、機器と骨のぶつかる音がした。ハンジが片目を押さえて転げ回っている。
うおおおお!?と呻くハンジをモブリットが心配そうに呼んでいた。
相変わらず騒々しい奴だ。
静かになるまで、少し待つ事にする。
「な…なに?いきなりどうしたの?」
僅かの間に随分くたびれた様子に変化したハンジが、戸惑いも露に俺を見た。
「言っただろう。聞いてみたかったんだ」
「なんで?」
「知りたい以外に理由があるか?」
「そういうのはほら、二人きりの時に聞くとか」
「どこで聞いても同じだろう」
「いや、うーん…」
難しそうに、そう唸る。
ハンジがこうも悩むのは、珍しい。
それほど難しい質問をしたわけではないと思うのだが。ただの二択だ。
「逆に聞くけどさ。ナナシは私とリヴァイ、どっちが好きなの?」
「お前に決まっているだろう」
「ええ!?そ、そうなんだ?」
「何を驚いている…?せめて同性同士で聞いて欲しかったが」
「あっははは…じゃあ、リヴァイとモブリットなら?」
「モブリットだな」
「はいっ!?」
今度は、モブリットが驚いたように声を上げていた。
同性同士とは言ったが。
何故リヴァイで合わせるのか。
好きか嫌いかと言われれば、それは勿論好きだと言えるが、アイツの場合はもうそんな分類を出来るような相手でもない。
「エルヴィンとモブリットなら!」
「エルヴィン」
「じゃあ、リヴァイとミケなら?」
「………………………ミケ、か」
「初めて迷ったね」
「ハンジ分隊長!ずれすぎです…!ナナシ分隊長も律儀に答えなくてもいいんですよ…!?」
モブリットからのツッコミに、俺たちは揃って口をつぐんだ。
何と言うか…やはり、いい部下だな。
ハンジが目に見えて狼狽えている。
話を逸らしたのは無意識だったのだろうが、それを指摘されて気付かない程の馬鹿ではない。
あれ?何の話だったっけ?
などと顔を赤くしながら尋ねてくる様子に、苦笑を隠せなくなった。
脱線している事には気付いていたが、別にそれでも構わなかった。
ハンジが俺を見るのなら。
顕微鏡の中身の事は、既に頭にないらしい。
「俺とリヴァイ。どちらの方が好きなのかと聞いたんだ」
だが、聞いてみたいと思った事は本当だ。今度こそ、答えてもらおうか。
リヴァイを選んだその時は…
正直、どうするかわからないのだが。
「リヴァ──」
「ほう……」
「ハンジ分隊長!!空気を読んでください!!」
***
照れ隠し的な何かだったりする可能性もなきにしもあらず…?
最初の段階でモブリット退出しようとしたのですが男主が引き止めました
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[mokuji]