「PP主妹な監視官で、どんな事でも宜野座の言う事ならとりあえず何でも肯定する夢主が宜野座を構い倒す話」
にこにこと。上機嫌に自分を見つめてくるナマエ監視官に最早居心地の悪さを感じる事もない。笑みを浮かべる場面でない事だけは明白であるのだが、それを指摘した所で何が変わるわけでもないとこれまでの経験で理解してしまっていた。
ナマエ監視官。
初対面での挨拶で、「兄と被るので、どうぞ名前で呼んでください」と自己紹介した彼女の、親しみの感じやすい笑顔はここ最近ではすっかりと残念な形で変貌を遂げてしまっていた。データを読んだ限りでは、優秀であった筈なのだが。
どうしてこうなってしまったのか。
あのナナシの妹だとは信じられない程くるくると表情が変わる彼女は、しかし、言動の読みにくいナナシよりも余程扱いが厄介だった。
「宜野座さんの顔を観ていて全く話は聴いてませんでしたが、宜野座さんの言う通りだと思います!」
「誰か、他に意見はあるか」
本当に、どうしてこうなってしまったのか。
敢えて視線を外し、それぞれの端末へと転送した資料を読み進めている執行官の面々へと声を掛ける。
ナマエ監視官は無視された事を特に気にする様子もなく、「反対意見なんてある訳ないですよ」などと述べている。
その声に反応するように顔を上げた縢が、慣れた仕草で肩を竦めてみせた。
「うん。特にないから、ギノさんはナマエちゃんの相手してあげて」
「有難う!ナイス発言だよ縢君!」
「…………狡噛」
「俺も特に意見はない」
「六合塚」
「私もないわ」
「聞かれる前に答えるが、俺もない。……そろそろ休憩の時間だろう。解散でいいんじゃないか?」
「……………………」
味方はいないようだった。
溜め息しか出てこない。
これで使えない監視官であったなら、対応はもっと楽だっただろうに。
深く、息を吐き出せば、それが解散の合図となったようだった。身勝手に俺の肩を叩きながら、執行官達が退室して行く。
そんな励ましは不要だ。
「宜野座さん」
「なんだ」
残ったのは俺とナマエの二人だけ。
じっと俺を観察していたらしいナマエが、小さく首を傾げながら口を開いた。
「お疲れのようですが……肩でもお揉みしましょうか?」
「これは心労だ」
「癒しをお求めですか」
「俺の癒しはそこには無い」
太股の辺りを両手で叩きながら何らかのアピールをしてくるナマエに即答する。
深く考えれば負けだろう。
えー、と残念そうな声を上げながらも、ナマエはそれ以上引き下がるつもりはないようだった。
唇をとがらせている様子から未練はあるようだが、流される事は最初から解っていたらしい。
何故俺にここまで絡んでくるのか。同期の監視官とまるで違う彼女の言動に、しかし不快感はない。
「…………ナマエ。食事にでも行くか」
「はい!喜んで!!」
「俺の話を全く聞いていなかったようだからな。一から説明し直そう」
「恐縮です!宜野座さん、頭撫でてみてもいいですか?」
「今の流れでどうしてそうなった!?」
間髪いれずに伸びてきた腕をかわす。
無駄に切れがいい。身体能力の高さを活かす場面はここではないだろう。
せめて逆ではないのか。
食堂に向かいながらそんなやり取りを続けていると、通りすがった青山に「相変わらず仲がいいわね」と微笑ましげに告げられてしまった。
あの攻防のどこが仲良く見えたというのだろうか。ずれた眼鏡の位置を直していると、隣でナマエが嬉しそうに笑っていた。
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