クリスマスのご予定は


冬の寒さも本格的となってきた12月上旬。練習が終わりバスケ部員達は片付けをしていた。一年生はモップで床を拭き、二年生は道具の片付け。三年生と、人数のバランス的に割り振られた晶は練習が終わったことを顧問に伝えに行っていた。顧問に伝えるのにそ4人もいらないと思うが、実はその顧問が自由人でふらりふらりと校内をうろつくので手分けして捜さないといけないのであった。

「なぁなぁ!うちバスケ部のみんなでクリパしたいんです!!」

そんな中、床を拭き終えた霖がモップを持ちながら、ランランと輝いた目でおおきくさけんだ。その声と発言に、他の片付けをしていた部員達が一斉に手を止め霖に注目する。

「霖…そんなまだ先の話……」
「なんやの青太!ええやんかー!うちはみんなと楽しいことしたいん!!なぁなぁ先輩等!12月24日のクリスマスイブ空いてます!?空いてますよね!?」

止めに入った青太の声を霖は聞く耳持たず、再び周りの年上達に呼びかけた。
そばまで寄ってきた青太にモップを押しつけ、一番近くに居た珠佳に駆け寄り白い手をぎゅっと握りしめて切実な目を向けた。

「珠佳先輩の家むっちゃ大きかったから、先輩の家でクリパしたいんですけど、あかん!?」
「……ふむ、クリスマスか……」
「そう!クリスマス!!」
「……24日、であったな?」

うーむ、とうなり出す珠佳。いつもの珠佳なら、こういう霖の無茶ぶりは殆ど頷き、承諾してくれていた。
それもあり、今回も承諾してくれると期待していた霖だった。しかし、うなり続ける珠佳にその表情は不安が募っていった。

そして、一言。

「すまない、無理だ」
「……なっっっ!何でですか先輩いいいいいい!!!」
「その日は丁度洋己に誘われている日でな。すまないと思うが、あちらが先約だ」

洋己、といえば天和ヶ原高校男子バスケ部のキャプテンの名前。何度か練習試合で交流もあり霖も覚えている。というか、バスケ部キャプテンというのもあるがそれ以外でも名前はよく聞く。なんて言ったって珠佳の恋人だ。
霖は珠佳に恋人がいることは百も承知だった。だから、この真面目な性格を…利用と言えば感じが悪いが、その珠佳の性格を把握して恋人より先手を打っておこうと思っていたのに、まさかまさかの自分より早いとは。

あからさまにがっくりと肩を下ろす霖。しかしターゲットはすぐに切り替わった。

「じゃ、じゃあ翠先輩は!?」
「あ、ごめんね…私、家が仏教徒だからクリスマスはいつもしてないんだけど……。その日大掃除するのに武道くんが手伝ってくれるって言ってるから…」
「なんで大掃除そんな早いんですかぁぁああ!!!」
「お、おせちとか親戚の方に行く準備とかあるから…毎年ホコリが舞うことは早めにしとこうって……」

霖は崩れ落ち、床をだあんっ!と勢いよく叩く。しかも真剣に返事をされてしまった。そういうことですけどそういうことじゃないんですよぉ!!と嘆く霖に、翠は目を白黒させた。
しかも、霖が嘆く理由はこれまた先輩の恋人の名前が出てきたからだ。二連続は何とも辛い。

「霖ちゃん、元気出してー!」
「そうだよ霖ー。ほら、これ上げるからさ」
「先輩達も忙しいんだし、仕方ないよ」
「さ、三人とも…!」

一年生三人が集まり、霖をなだめ始めた。
その優しさに、霖はぶわっと涙があふれ出る。

「せやんな……残念やけど今年は一年生だけでクリスマスの日にパーティーしような…!」
「えっ」
「え?」
「クリスマスは虎くんと一緒にサンタさん待とうって約束してるんだ……」
「僕は冬休みの初めの日だし、雷光さんとストバス行こうって……」
「………せ、青太は……?」
「…………俺も、清次さんがその日は開けておけって…」
「嘘やぁぁぁん!!!!」

折角舞い上がれたというのに、地獄に突き落とされた。霖はそんな気分だった。虎くんとやらは確か涼野宮高校のバスケ部であくあの彼氏で、雷光さんは希望光のキャプテンで虹助のあこがれの人。青太の言った清次さんは先ほど出てきた珠佳の恋人と同じ高校で、青太を気に入っていた、性格がなにやら厳しそうな人だった。そんな人達と先に約束しているんだから、霖の後からの約束に勝ち目はない。
裏切り者おおおお!!!と叫びながら、本当に崩れ落ち床に泣きつく霖。その姿は何とも痛々しい。

「なあ霖ー。何で俺と丹三郎には声を掛けないんだ?」

声を掛けられるのをわくわくしながら待っていたのか、一言も触れられなかった闘牙と丹三郎は少し沈んだ声で聞いてきた。
黄色かった目を、充血させた霖はだって…と口をとがらせて、拗ねた口調で話を切り出した。

「だって二人は彼女も何もおらんし、聞かんでも大丈夫かなーって……」
「彼女がいないから用事がないとは限らないだろうが!」
「え、じゃあ用事はいっとるんですか?」
「僕はクリスマスのホラー映画特番をリアルタイムで見るからな、無理だ」
「よし丹三郎先輩は空いてますね」
「話を聞いていたのかお前は!!」

クールに眼鏡をあげて、格好良く言ったが出てきた台詞は特番を見るというなんとも残念な物。これが彼女が出来ない理由か……と、霖は丹三郎を見て冷たく深いため息をついた。少し可哀想である。
この場に残っているのは後一人。霖はちらり、と我等がキャプテン、闘牙を見た。

「ん、俺は空いてるぜ?元々クリスマスの日は一日中一人でチキンとか食べ歩きでもしようと思ってたしな!」
「あかん、この人とクリパしたら破産するわ!!」

さわやかな笑顔で言われたが、闘牙の胃は底を知らない。恐らく一日食べ歩き、というのは本当に「丸々一日」なのだろう。資金を出す人もいないパーティーにこの怪物をつれてきては絶対にいけない。
普段なら、珠佳がいて金銭面の心配は無かったりするが、今回はいないのだ。購入する物を減らしたら自分の取り分が無くなると悟った霖は、人が集まったらやりましょうとだけ闘牙に言っておいた。


「たっだいまー」
「はぁ……やぁーっと見つかったぜ…皆川先生って何であんなうろうろしてんだよ…。ねえルイ先輩」
「ぅ、え…!?……そ、そう…だね……」
「くっそ余計な手間掛けさせやがってあのひょろ女…!」

「やったぁ!!先輩達おかえりなさああああいぃぃぃ!!」

落ち込んでいた霖の姿はどこへやら。三年生と晶が体育館に姿を現すや否や、そちらに飛び込んでいった。思わぬ激励に四人ともぎょっとする。ルイなんかは思わず、大斗の後ろに隠れてしまった。

「ルイ先輩隠れんとってー!!!あんな!クリスマスみんな空いてません!?」
「く…クリス、マス……?」

おどおどと大斗の後ろから顔を出して、霖の言った言葉を復唱する。ついでに大斗が「うぜぇ」と一言こぼして、大斗を盾にしていたルイの脳天を思いっきり叩いた。音からして可なり痛そうだ。横に立っていた晶は、その大斗の行動にびくりと肩を動かして、大斗にばれない程度に距離を取っている。

「あー、霖ごっめんな!俺等三人、クリスマスはいつも孤児院の方にいってパーティーの手伝いしてっから無理だ!」
「な、何やて…!!………大斗先輩も、手伝いしてはんですか…?」
「おう、大斗はいつもサンタ帽をかぶっいっっでぇ!!!!」
「誰がいつんなくだらねぇモン被ったってんだよ!」
「……ほ、本当に手伝いはしているのですね…」
「ああ゛!?なんか言ったか紫水!!」
「いいいいいえ何も!!!!」

とてつもなく悪い目つきで睨まれ、ドスの効きまくった声で怒鳴られると晶は先ほどよりも更に大きく肩を揺らして後退した。もう数ヶ月一緒にいるが、この怒鳴り声には内心とてもびびりな晶にはとうてい馴れることは無かった。
ただし、霖それに驚くことなく、ただただ肩を落とした。

「さ、最後の頼みや!!晶せんぱあああい!!!」
「ぅお!?ど、どうした霖!」

うわーん!と泣きながら自分より身長が低い晶の胸に飛び込む霖。胸に飛び込むというより、抱きついて肩越しにぐずぐず泣いていた。
晶はそんな大きな子供に、苦笑を漏らしながら背中ををぽんぽんと叩きなだめる。

「みんな……みんな酷いんですよぉぉぉう……。うちはみんなと遊びたいのに…あかんあかんって…」
「うんうん、分かったからとりあえず泣き止もうな霖。遊ぶなら俺が付き合ってやるから」
「ほんまですか!?」

一気に花が咲いた様にぱあああ!!と表情が明るくなる霖。それをみて、晶はやっぱりこいつ犬みたいだなぁと思いながら、少し困った笑みを浮かべた。

「じゃあ、じゃあ晶先輩!クリスマス一緒にクリパしような!!」
「……………クリスマス…?」
「……………え、先輩…まさか……」

晶の笑みが、引きつった物に変わった。それを確認すると、霖も顔を引きつらせた。この反応は、先ほどから何度も何人にもされているのだ。
は、はは……。と乾いた笑い声を出す晶。そして、霖の肩に手を置いて、悪い…!と謝った。

「…クリスマスは、弟達と……相模さんの家に行こうって約束してるんだ…!!」
「ああああああああああやっぱりいいいいいいい!!!!」
「ごめん!ほんっとうごめん霖!!遊ぶなら今度一緒に遊んでやるから!な、みんな!」
「うちは、うちはクリスマスに遊びたいんですよおおおお!!」

わんわん泣き言を言う霖に、晶が必死になってなだめる。が、今の晶だと逆効果なようで全然収まらない。

「…つか、なんで志都は片思いしてるやつをクリスマスにさそわねぇんだ?」
「ああ、あの希望ヶ丘の…鳴海深馬だったか?」

闘牙と珠佳の言葉に、霖はぴたりと動きを止めた。
そして、ぎぎぎぎ…と壊れた機械のように二人の方を見た。その行動は、肝が人一倍据わっている二人からしても少し恐怖を覚えるものだ。

「……誘い、ましたよ…?せやけどね、あんね……何回も電話とかメールとか飛ばしすぎたみたいで………音信不通状態になってもうたんですよおおおおおお!!!!」
「…それ、拒否されてるだけじゃ…」
「うわあああああああん!!!言わんとってくださいよおおおお!!」

今までで一番悲痛な泣き声が体育館に響き渡る。クリスマスに好きな人に相手にされてないから個々までこだわっていたし、周りの約束に過剰反応していたのか。と珠佳が冷静な分析を始めたが、正直それどころじゃない。

「分かった!!霖分かったから!!!落ち着け!!23日遊ぼう!な!早めのクリスマスにしよう!?」
「そうそう晶の言ったとおり!そうしような霖!!な、みんなそれなら良いだろ!?」

太陽と晶が必死になってなだめる。もうここまで来たら全員頷くしかなかった。

なんとか23日で妥協した霖。その日は、霖の相手をするのに全員が練習以上の疲れを覚えた。


しかし、数日後に霖が意中の相手にクリスマス予定を合わせてもらえたことを大声で報告に来た時は全員ほっとしたが、舞い上がり過ぎて23日のクリスマスパーティーをなんとすっぽかす、なんてことをしてしまったときは流石に全員から雷が落とされた。


(メリークリスマス!)

prev Back  


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -