調査


私の連休に願ったゴールデンウィーク中に帰りたい、というのは全く神様に聞こえなかったみたいで。もうその連休はとうの昔になってしまい、五月半ばになっていた。
この前雪咲さんに中々帰れないと泣き言を言ったら、「御愁傷様」とだけ返された。相変わらず雪咲さんは冷たい……。けれど、正直怖いって思うことはあまりなくなった。何だかんだで話してくれるし、私が書記って役なのもあるけれど書類整理の仕事を頼まれることも多い。
誰かにこうやって頼られるっていうのは、今までなかったから嬉しかったりする。

他にこの数日で何があったかなぁ。ああ、図書室でまた新しく女の人と話すことができたなぁ。えっと他には、確か、……ゴールデンウィーク開けたら隣のクラスに転入生がきたなぁ。どんな人なんだろうか。

ところでなぜ私がこんな風にぼんやり考えているかというと。


「雪咲風紀委員長、あちらの捜索終わりました。今のところ目ぼしいものは…」
「そうか。なら聴き込みにでも行ってこい」
「委員長、報告が…」
「何だ。おい藤原、ちゃんと書き留めておけよ」
「は、はい……!」

早朝から死体現場の捜査をしているからです……っ!
直接的に言うと現実逃避です。ええ…っ。もうこの数週間で何度かしたけれど、一向に慣れない…!

雪咲さんと、現場を調べている黒いスーツを着た……雪咲さん曰くこう言った分野専門のOBの人の会話を必死になって書き留める。最初はしていなかったけれど、数回こう言った事件が起こる度に私は雪咲さんと一緒に現場に向かう形になっていた。どうしてこうなってしまったんだ……!
書記という役ということで、雪咲さんに報告されたものは全て私がメモすることになっている。確かに、人の話を聞きながら書くのは早い方だし小さい頃書道をしていたおかげで走り書きでも読めないという字にはあまりならないけれど……その、書き取る内容が……辛い……!!

殺人事件ということもあるから、私にとっては聞くだけでグロテスクな単語がたくさん飛び交う。それをそのまま文字にしなきゃいけないから、もうペンを握りながら泣きそうだ。
……実際、一番初めは泣いてしまって雪咲さんに怒られたんだけど……。

必死になって手を動かしていたら、会話が終わり私の手もワンテンポ遅れて止まった。ふぅ、と一息いれる。

この調子だったら今日は授業でられないかもなぁ。何だかこの前までよりも酷い事件……みたいな感じらしいし。雪咲さん達の調査が終わったら一日書類のまとめだろうしなぁ……。
はぁ、とため息一つ。それとほぼ同じタイミングで雪咲さんのポケットから電子音が鳴り響いた。

取り出し、液晶の画面を見る雪咲さん。瞬間眉間に皺を寄せて小さくげっと声を漏らした。中々電話にでようとしない雪咲さん。数秒だけ画面を見つめて、渋々という顔で鳴り響くそれを耳に当てた。

『…です、雪咲……長』
「……何の用だ」

雪咲さんの声があからさまに不機嫌だ。電話をかけてきた人は女性なのか、雪咲さんの横にいる私には電話先の声が途切れ途切れに聞こえてくる。

『……も介入する事に……ので、………で』
「はあ?ふざけんな。お前らが入ってきたら聞ける事も聞けなくなるだろうが」
『これは…………であるわたくしの……です。……ちゃんに………お願いしますね』
「おい!ちょっと待っ……!切りやがったあの野郎……」

真っ黒になった画面を見つめ、雪咲さんは大きく舌打ちした。不機嫌なオーラが増して、あからさまに嫌そうな表情をしている。
それがちょっと怖くて、少し距離を開けようと後退する。と、がっと腕を掴まれて思わず小さく悲鳴を上げた。

「何している藤原、仕事だ。今すぐ委員長室に行け」
「は、はいっ!?」
「今現在で報告された情報を持っているのはお前だけだからな。それを資料としてある程度まとめてこい。HRが始まるまでにだ」
「え、え、そ、そんな急に……っ」
「言い訳するな鬱陶しい。さっさと行け」

横暴で理不尽です雪咲さん!!でも今の雪咲さんすごく怖い!普段から逆らうなんて考えたことないけれど、今日の雪咲さんに無理ですなんて言ったら威圧で殺される気がする……!!
雪咲さんに返事をして、急いで駆け出した。慌て過ぎて思わず転んでしまって腕とか擦ってしまった。後ろで雪咲さんがため息を付いた気がするけれど、自分が流したほんの少しの血に焦り、また駆け出した。




「こ、こんなもの……かな……!」

私がパソコンが使えないから、全て手書きになってしまったけれどいいのかな……!パソコン使える人に頼んだ方がよかったのかもしれないけれど、そんな時間なかったし……。
手書きってだけで、普段ある資料と形式は変わらないし大丈夫だよね……。きっと……。雪咲さんもある程度って言っていたし……。

少し痺れる手をマッサージしながら、掛け時計に目をやる。時刻は8時25分。ギリギリ間に合った。一息入れたら、さっき転んだところがじんわりと痒みに近い痛みが現れた。気がつかなかったけど頬や腕とか、あちこちを擦りむいていたみたいだ。
時間が経ってもう傷口は閉じてしまっているけれど、消毒して絆創膏でも貼っておこう。

立ち上がり棚から救急箱を取り出す。本当は置いてなかったんだけれど、私が頻繁にこういう怪我をするからと雪咲さんが置いてくれたものだ。
……やっぱり優しいんだよなぁ、雪咲さんって……。ちょっと横暴だけど。

自分である程度手当てをして、資料を見直して、保存用と雪咲さんに渡す用にとコピーする。保存用はファイルに入れて、棚に収めて、コピーした方のものは雪咲さんの元に持って行ったらいいのだろうか。でも場所を移動してるかもしれないし……。
メールして確認しようかな、と思ってケータイを眺めていると入り口の扉が開いた。



(雪咲さんと……あれ?箕社さんだ)
(もう一人の男の子は、誰だろう)

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