act1-1


薄暗い月明かりが差す夜。町外れにある大きな屋敷は、夜の静けさを掻き消すように煌々と輝き、炎に包まれていた。
木材で出来た建物は勢いが収まることなく燃え盛り、外壁は所々完璧な黒ずみとなって崩れ落ちている。

そんな屋敷の中を、まるで何も起こっておらず平然と廊下を歩く黒い影達。
頭上から落ちてくる柱やシャンデリア、普通なら焼け死ぬであろう炎達はなんと影達を避けている。

「……ったく、あいつ等派手にやって…。オリゲルト、俺はこっちに行くからそっち頼む」
「…………」

赤い液体で染まった頬を拭いながら、後方を歩いていた影は立ち止まり提案を出した。
しかし前方を歩いていた、オリゲルトと呼ばれた男はそれに対し何も反応せず、淡々と足を前に運んだ。

その態度は既に予想済みだったのか、残された男は小さくため息をつき角を曲がった。

燃え盛る長い長い廊下は、赤色の絨毯に加え、壁には不自然な赤い模様と赤尽くしとなっていた。
その所々に肉塊や臓物が、まるで子供が玩具を散らかしっぱなしにしたように落ちている。

しかし男はそんなことには目もくれず、躊躇なく踏みつけながら廊下を進んでいった。歩く度に浅い泥沼を進むような、生々しい音が鳴った。


ふと、男の鮮やかな橙色の瞳が、不自然に燃えていない扉に目が止まった。

真っ黒な服装とは対照的な、少し血の気のない腕が伸び、ドアノブに手をかける。
その瞬間、つんざくような銃声と共にドアに穴を開けて弾丸が男を目掛けて飛んできた。しかし、何も驚いた様子もなく、軽く首を傾けるだけの動作でその高速に動く小さな弾を避けてしまった。

そのまま何もなかったようにドアノブを回し、中を覗く。

「チッ…、外れたか」
「……一応仲間なんだから狙うなよラルフィー…」

やはり不自然に燃えていない部屋の中で、硝煙の臭いと煙草の身体に悪く中毒症のある臭い。そして極めつけに何か独特な臭いが入り交じり、男は思わず眉を潜めながら手の甲で少し鼻を抑えた。
銃を打ち、舌打ちまでもしたラルフィーと呼ばれた男は何も悪びれなく、寧ろ蔑むように失笑を口に浮かべた。

「はっ、仲間なんざよく臭い台詞軽々と言えるなぁシェンツァ。
………あ?何でテメェがこっちにいんだよ。お嬢サマの側でへらへらやってろよ」
「そのお嬢さんが心配して俺達を寄越したんだよ。予定時間オーバーし過ぎてんぞ…。
…………それより。任務中何してんだよ、こんな場所でそんな格好して」
「あぁ?」

何か文句あるのか、と言いたげに鋭い深緑の瞳で睨むラルフィーの格好は、半裸だ。あちらこちらに切傷や銃弾が身体を貫いた後、生々しすぎる傷跡が浮き出ている身体に纏うものは何もない。
部屋のベッドに腰掛けているラルフィーのものであろう黒いコートやインナーが無造作に床に落ちていて、シェンツァは更に呆れた。

「その上煙草なんていつから持ってたんだよ……。お嬢さんに知られたら、お前が俺のターゲットになるとかが有り得てくるぞ…」
「はっ、逆になってくれた方が楽しそうだけどなぁ?」
「……勘弁してくれ…」

シェンツァは寂しそうに落ちていた服一式を拾い上げ、ラルフィーに投げて渡した。
受け取ったラルフィーは口に加えていた煙草を吐き捨て、インナーに袖を通す。

「つか、本当何やってたんだよ」

ラルフィーはああ、と親指を後ろに指差した。その動作に従うまま、シェンツァは彼の後ろを覗き込む。
ベッドの上にあるものを見て、思わずシェンツァは目を見開いた。

そこにあったのは女性の死体。しかも彼女を覆うものは何一つなく、肌色が露にされていた。
シェンツァは顔を赤くして驚きたじろんだが、直ぐ様目を逸らし、ラルフィーを睨み付けた。

「……こうなった経緯は?」
「あ?興味出てきたのかよ童貞」
「ちげぇ!!この無駄な行動をした意味を報告しろっつってんだよ!!」

恥じらいか怒りか、シェンツァは耳まで真っ赤にしてラルフィーに叫んだ。
それまで彼の反応を見てにやにやといやらしい笑みを浮かべていたラルフィーは、気に入った反応出はなかったからか途端に不機嫌そうになり、舌打ちを打った。

「っせぇな。耳元で喚くな。
その女が何でもするっつーからヤって、面倒になったから殺しただけだ。文句あんのか」
「……文句しかでねぇよ…」

この理不尽な男に、シェンツァはただただため息しか出てこない。
こんなふしだらな報告、一体どうしてお嬢さんに知らせれるだろうか。まず、過保護とも言えるが心配してくれた彼女に対して、こんな失礼な行動があるだろうか。

頭痛が止まないシェンツァを無視し、ラルフィーは先ほどまで吸っていた煙草を「不味い」と一言吐いて部屋の外の炎へと投げ捨てた。
どうやら煙草は哀れな死に方をした女性のものであったようだが、不味いならば吸い始めたらすぐに捨てればいいものを。
何年もの付き合いだが、彼の行動はシェンツァには未だ理解不能だった。

「……あいつは何処だ」
「あいつ…?」
「包帯グルグルミイラの任務馬鹿以外いるかよ。
お嬢サマがてめぇみたいな腰抜け一人に来させるわけねぇだろ」
「……色々反論したいことはあるが、オリゲルトなら別行動だ。今頃イノージュを見付けてるだろ」

それを聞いて、残念そうに、そして忌々しそうに舌打ちをしたラルフィー。シェンツァはその行動に少し寂しそうな表情をして、見てみぬ振りをした。

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