2-10


「ドラゴンの血は、人間には長寿の薬になると言われてるんだ」

先ほどリトがあたしに説明してくれたように、今度はヨークがせりに説明を始めた。その声は少し淡々としていて、ヨークの見た目よりも随分大人びた落ち着き方だった。

ドラゴンという種族は、この世界の中で最も長寿の生物。千年以上生きているドラゴンも存在するらしい。
そんなドラゴンの血や肉は珍味であり、人間だけでなく他の種族の薬にもなる。

永遠に近い長寿…だけでなく、驚異的な回復力、人間離れした身体能力、研ぎ澄まされた五感……その他諸々の効果をもたらすらしい。
ただし、それだけではない。
たった一口だけでも口にするとそれだけの変化がもたらせらる。…代わりに、それ相応のリスクも伴う。体の構造や細胞が一気に変化するのだから、その変化に耐えられる精神と体がなければいけない。どれだけ自分は大丈夫、なんて過信していても……ドラゴンの血肉を口にした人間は、痛みなど感じない間に死に至っている。

成功した人間なんて本当はいない。ドラゴンの血が薬なんて迷信だ。

……と、言われていたけれど、迷信と確信されない理由がある。それがドラゴンと人間の間に生まれたハーフという存在。
ドラゴンの血は毒に等しいが、ハーフの血だと飲んでも死なずにいる人間が現れた。その効果は言い伝えられているドラゴンのものとは劣るが、絶対的な効果を発揮していた。長寿にはならないものの、驚異的な回復力や強靭な肉体…人間離れした体になることはできる。

……ただし、やはりドラゴンのものと同じく死に至る可能性は十分にある。その上、死ぬのを回避してもリスクは何かしら伴ってしまう。

「……はず、なんだけど…」

ヨークはちらり、とせりの様子を見た。あたしも、ヨークと同じくせりの顔を見てみる。
こんな話を聞いてもせりは相変わらずの表情。リスク……どころか、あの時回復した後なんかいつも以上に調子がいいような感じだった。ここまでくる間も…リスクと言われるような症状はみてない。

それが逆に不思議なのか、ヨークは首をひねりながら小さく唸った。

「あと、いくら回復力が上がるといってもあんな一瞬で回復するなんて…聞いたことないよ」
「でも何もないしもうなんでもいいんじゃなーい?」
「よくない!いくら緊急事態とはいえ、飲ませたのはオレだから責任はオレにあるの!それに、本来ならリスクは…精神状態が異常になって半狂人になるものなんだ……」
「あ、だから凄く戦いたいなーって気分になるのかな」

間。

せりのさらーりと言った言葉に、その場にいる全員が固まった。それとは完全に真逆で、せりはきょとんとした顔をしている。
数秒経って、ハッと我に返ったヨークが勢いよく立ち上がった。気が荒ぶっているのか顔が凄い形相になってる。

「それやっぱりリスクの症状でてるじゃん!!大丈夫なの!?」
「わぁ〜、ヨークの顔半分ホラーみたーい」
「せりヨークの話聞いたげて!!」
「そうだぜそんな小難しい話よりも俺の姿をみろ!!」

なにか混ざってる!!
今まで話していたメンバーとは全く違う、大声が響いた。全員その大声を出した主の方に目を向ける。それが誰なんて…考えなくても分かる。こんな台詞いうのは、言わずもがな有紀だ。
有紀が変なポーズで立ってるからちょっとクッションでも投げてやりたい。

「うっわ!?びっくりした!君いつ入ってきたの!?」
「その問いに答えるにはまずはこの罪深き運命の鎖を断ち切ってなんかこうハイパーウルトラレアなカードを差し出して俺の前で引きちぎることだな!!」
「椿!この子何言ってるかさっぱりなんだけど!?」
「ごめん気にしないでヨーク!あたしもさっぱりだから!」

高笑いしてる有紀の声は聞こえないふりしよう。そうしよう。
突然の乱入者に頭を抱える。リトなんかはきょとんとした後に楽しげに笑って「椿とせりの友人は面白い奴だなー」なんて言ってる。面白いで済ますリトが凄いよ!本当にこの人天然だ!!

有紀がリトとヨークに自分の名前を意味不明な自己紹介で名乗ると、リトは笑って、ヨークは呆れた上に疲れた表情をしてあたし達にしたのと同じ様に名乗った。
そういえば、街の外で会った時バタバタしていて有紀は名乗ってなかったなぁ。七瀬もだけど、今いないってことはまた有紀が勝手に行動してるのか…。

そこで「あ、」とヨークが何かを思い出したように声を出した。

「そうだ言い忘れてた。オレ、同い年ぐらいだと思われてそうだけど150歳だから。そこのところよろしくね」
「えっ、」

確かにさっきドラゴンは長寿とか、そんなこと言っていたし、ヨークはドラゴンとのハーフみたいだし、ちょっと何歳なのかなとは思っていたけど。まさか自分の10倍以上も生きてるなんて…!!

「でもヨークはおじいちゃん扱いするとすっげー怒るんだよなぁ〜!年下扱いしても怒る癖によぉ」
「結局精神年齢は15か16だからな…」

扉の方から、聞いたことのない男性の声が二つ。
そちらの方に視線を送ると、白に近い青色から少し濃い青色へとグラデーションになっている…まるで水の様な透き通った髪をしていて、瞳は澄んだ黒に近い青色。肌は日に焼けた感じに少し濃い色で……耳が、まるでエルフの様に長く尖っている、明るそうな人。
そして、リト達と同じ様な金色…だけど、どこか冷めている瞳。褐色の肌に映える銀色の髪はまるで月みたいで、綺麗な色をしている、大人らしい雰囲気をまとった人。

誰かが彼らの名前を呼んだわけではないけれど、この二人が「ソウマ」と「アロウ」と言われていた人なんだな。と、直感が言った。

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