2-9


二年前、リト達の世界にあの黒い空間が突然現れた。どれほど凄い魔術師が調べてもそれがなんなのか解明できない、不思議な空間。その空間が現れてからほんの少し経つと、世界各地で封印されていたはずの魔物や悪魔の封印が解かれる現象も多発した。
封印が解かれる場所には、必ず一人の男の姿があったらしい。実際に、封印の力をいとも簡単に消している様子を見た人もいるそう。
彼は何が目的で、どうしてそんなことをするのか誰も分からなかった。けれど、世界中の人々はその人物をこう呼ぶことにしたらしい。

『世界を滅ぼそうとする魔王』と。

おそらく黒い空間も、魔王に関係していると誰もが思い込んだ。世界中の王国から魔王討伐の声が上がるのに時間はそうかからなかったらしい。

そして、魔王を見事倒し封印したのはリト達……ということだ。

「俺には、他者の力を俺自身に封じ込める力を持っているんだ。俺は魔王の力を俺の中に、そして魔王の身体と魂はアリアが魔王と戦った土地に封印した」

魔王の話はまだ少しあるけれど……。と少し表情を曇らせながら言うリトは、あたしの方を見て少し微笑んだ。
この話はあたしの質問からは離れていくから、また今度と言うことらしい。

少し気になるけれど、確かにあたしが今一番知りたいこととは少し違うかもしれない。
リトは自身の胸をとんっ、と叩いて少し目を伏せた。

「俺にはもう一つ力があって、封印した力を他者に渡すことが出来るんだ。……といっても、これは俺の魔力の波長と封印した力の波長、そして渡す相手の力の波長全てが合わないと成功しないんだ」
「……まぁ、椿にはあっさり成功したってことは、その三つが偶然あっていたってことだね」

横からヨークのフォローが入る。
本来なら、そういった魔法は条件が合っていることなんて滅多になく、高確率で譲渡する相手の体が拒否反応を起こすらしい。拒否反応が起きた体はよくて数日間は動けなくなるだけだが、最悪生きてはいるけれど意識は一生戻らなくなることもあって、とても危険な魔法とのことだ。
しかも、リトはその力があるのは旅の途中で判明したが実際に使ったのはこれが初めてとのこと。

……え、それって結構危険なことされたんじゃないのあたし……!!

「ど、どうしてそんなことしたの…!?」

今は五体満足だからいいものの、もし失敗していたらどうなっていたことか…!!
ぐっとリトに詰め寄る。そう、あたしが一番知りたいのは“どうして”この力をくれたのか、だ。

じっとリトの黄金の目を見つめる。
リトは……今まで真剣だった雰囲気を壊すようなへらっとした、少し子供っぽい笑顔を見せた。

「ごめん、俺にも分からない!」
「………はぁ!?」

予想外の言葉が返って来たことに素っ頓狂な声があがる。いやいや、分からないってどういうことなの!?
リトの返答が面白かったのか、あたしの声が面白かったのか、あたしの横にいるせりがケラケラと笑い出した。笑い事じゃない!!

あはは、と悪びれなく笑ってるリトとは対照的に、ヨークは心底申し訳なさそうにしてため息をついた。

「ごめん椿、この天然バカって後先考えずにこういうことしちゃうんだ…」
「何もなかったし、結果オーライじゃないか」
「どこが結果オーライなのこのバカリト!そもそもアリアが解析終わったら本格的に調べてもらわなきゃいけないのに他人に譲渡したら魔力の質が変わるに決まってるじゃん!しかも質どころか波長合いすぎたのか椿に渡したことで絶対力の効果自体が変わってるでしょあれ!」

ガタッと立ち上がり必死な顔になっているヨークの言葉のマシンガンがリトを攻撃する。けれど、本人には全く効果はないようだ……。
落ち着いて、とヨークを宥めるとハッと我に返ったみたいで、「取り乱してごめん」と謝りながら再びソファに腰を降ろした。

「あ、完全に分からないって訳じゃないぞ。そうだな……あの時さ、椿の目が必死でさ。あんな目を向けられたら俺に出来ることしたくなってさ」
「だからって…!……はぁ、もういい。過ぎたことを色々いっても変わらないか……。あと椿が気になってるのは確かその力がどういう効力か、とかそういうのだよね?」
「え、うん……」

もういいのか……。と思ったけれど、確かにこのままリトの行動を言っても何も話は進みそうになさそうだしなぁ。
それに、確かにこの力の効力?っていうのは気になる。魔物が光になって体の中に入るとか……どんなホラーだって話だ。あと、何度か試行錯誤して試してみたけど剣の出し方がさっぱりわからない。あの熱い感覚も、今じゃこれっぽっちも感じない。

一体リトが渡してくれた、元々魔王と呼ばれていた人の力というのはどんなものなのか。あたしだけでなくせりも興味津々だ。
……だった、けど。

「ごめん、オレ達も詳しく分からないんだ。あの剣は完全に魔王が使っていたのと同じ形なんだけど、きっと色々変化してるだろうし……」
「そ、そうなんだ……」
「だから後でアリアに見て貰おうぜ!魔法のことならアリアに任せたら大体解決するしな!」

リトの言葉にヨークが頷く。二人からの絶対的な信頼を見る限りさっきの女の人はそんなに凄い人なのか……。
どんな人だろう、と次の質問はアリアさんについて聞くことにしよう。…と、思ったけれど、横から発せられた声にそれは遮られた。

「はいはーい!じゃあさ、次の質問なんだけど。せりどうして生きてるの?」
「直球!!」

そうだ確かにそれもとても聞きたいことだった!!自分のことばかり気にしてしまっていたけれど、正直あまり害のなかったあたしの剣云々のことよりもせりの方が大事だった!
でもせり……どうして生きてるのって何かそれちょっと哲学的じゃないかな……。もうちょっとこう、別の言い方があったんじゃないかな……。

せりの質問に、リトとヨークは二人して「あー…」と声を漏らした。何か少し、あたしの時よりもいうのを戸惑っている様な雰囲気だ。
ちらり、とリトがヨークに目配りをする。そんなリトを見て、ヨークはまたため息をついた。けれど、そのため息はさっきみたいなリトに呆れるようなものではなくて、逆に自分を責めているようなものだった。

少しだけの沈黙が流れそうになったが、せりは「ねぇねぇ」と答えを急かした。その声に「あー」とか「えー」とか、頭を掻きながらうなり声だけを返すヨーク。
やっと言う決心が付いたのか、ヨークはせりから目を逸らしながら口を開いた。

「えー……っと……。…椿の場合はさ、新しい魔法を覚えたと同じでそこまで体に変化はないと思うんだけど……」
「だけどー?」
「……その、凄く言い辛いんだけど……多分せりの体は構造自体が結構変化…させちゃったと…思うんだ…。
…つまり、一般人とも違う、魔法使いとも違う、かといってオレの様なハーフとも違う。………凄く、変わった人間になっているんだ…」

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