2-5


ずしり、と重い。
質量が重いんじゃない。あたしが手にしている大剣は、見た目より遙かに質量は軽い物だ。でも、それでも、重い。何が重いかは分からない。けれど、例えるなら……力が、この剣の中にある力が、重いんだ。

リトは一体何をしたんだろう。どうしてあたしは、この大剣を手にしたんだろう。どうして、こんなにも、身体が熱いのだろう。
どくんどくんと脈打つ心臓。あたしの中から何かがあふれ出てきそう。これは、一体、何。

内からあふれ出てきそうな底知れない熱と、手に持っている大剣の重い力のせいか、体が動かない。けれど、あたしの視線はしっかりと、一つをとらえていた。
大切な友人を、あんな、傷だらけにした、一つ目の巨人。

巨人を襲っていた炎は、段々と勢いを弱らせていく。巨人は、恐ろしい声で叫び、一秒でも早く炎を消す為に怒り狂いながら棍棒を振り回す。
心臓が鼓動してる音が耳に入る。今しかない。あたしが今するべきことは、今だ。今、一体何をするんだろう。と自問自答する。さっきから自分の考えが分からなかったり、こんがらがっていたり。ややこしい。

でも、身体は分かっている。何をするか。あたしがするべき事は何か。

動かなかった身体が何かに押されるように、あたしの足は前に進んだ。軽くて、重い、不思議な大剣を両手で持って前に駆ける。自分の身体を追いかけるように、思考が何をするか追いついていく。
足を前に出す。進む。巨人に、近づく。自分よりも、何倍も大きな怪物の元へと駆ける。そして、身体の中の巡る熱いものを、大剣を握っている両手に集中させる。

そして、大剣を振りかざして−−−

「やぁああ!!」

力の限り、振り下ろした。

大剣は巨人にかすりもしなかった。いや、当てようとは思っていなかったんだ。
空中だけを切った大剣。だけど、変わりに集中させていた熱が一気に大剣から飛び出たのが分かる。あたしの中にあった熱は、弧を描いた光の刃となって、一直線に巨人へと向かって行った。

そして−−−…



ずぅん、と地面が揺れる。巨人が地面に倒れこんだ音だ。
それに釣られるように、あたしも地面に膝から崩れ落ちる。自分でも驚くぐらい息が荒く、必死に空気の吸い、吐き出した。心臓はさっきよりも早く脈打っている。でも、あの不思議な熱さは収まっていた。

手にしている大剣に視線を落とす。それは、白とくすんだ黄色だけの色合いでとてもシンプルなデザインだった。どう見ても、あたしのような子供が振り回すどころか、持ち上げることすら不可能だと思うぐらいの大きさだ。
その大剣が突然、ふわりと浮き上がり優しい光に包まれた。あたしがぎょっとしている間に大剣はみるみる形を失い、光の球だけになった。

そして、その光の球はあたしの周りをくるくると舞い……あたしの中に、溶けて行った。
すとん、と心の中に落ちるようだった。

「……いやいやいや、何冷静に分析しているんだあたし……!!」

思わず自分でつっこみを入れてしまう。
我に返った途端、何当たり前のように受け入れているんだ!?と自分に問いかけた。だって、リトが助けてくれるだけで終わってたはずなのに、何であたしがいきなり剣持って一つ目の巨人に立ち向かって倒してるの!?おかしい絶対におかしい!!

そこではっとした。そうだ巨人!倒れたけど、あの巨人は一体どうなったんだろう…!!倒れた時に斬れたような跡はなかったけど……!!

ばっ、と巨人の方を見る。………と、あたしはまたぎょっとした。巨人は、さっきの大剣と同じように光に包まれていた。ふわり、ふわりと優しい光が舞っている。
そして、やはり同じように巨人の形がなくなり光の球になるとーーーあたしの周りを取り巻き出した。

「え、え、えぇ!?」

慌てふためくあたしなんて他所に、光の球はふわり、と揺れたと思ったら、一瞬であたしの中に溶けて行った。

……え、いやいや一体何がどうしてそうなった!?

リトッ、と涙声で叫ぶ。彼は一体あたしに何をしたんだろう。言葉は伝わらなくても、何か雰囲気だけでも伝わればいい…!とにかく少しでもあたしに起こったことの現状が知りたい。
でも、あたしが見たリトの表情は予想外の物をしていた。

驚きと、困惑。自分とあたしの行動に驚愕しているのがその表情だけで伝わってくる。リトの口が動いて、聞き取れない言葉が発せられる。
それはきっと……「どうして」と、あたしに問いかける物なんじゃないかなと思った。そう、直感が言っている。

しかしリト……あたしもどうしてと聞きたい……!!寧ろあたしの方が言いたい!!どうしてこんなことになったの本当……!!


無言でお互いを見つめ合うあたしとリト。そんな静寂は、ヨークの叫び声で現実に引き戻された。

そうだ、あたしはこんなわからないことに悩んでいる場合じゃない。自分のことも大切だけどそれよりも重大なことが今この場で起こってたんだ…!

「せり!!」

友人の名前を叫んで、駆け寄る。ヨークが手当てしてくれたのか、体のあちこちに包帯が巻いてある。
でも、目を閉じているその顔は、どう見ても危機を感じるものだった。真っ青で、息も荒くて……死に際、だ。
必死にせりの名前を呼んで声を掛ける。反応はない。さっきはまだ返事をしたりしてくれたのに、もう声も聞こえてないのだろうか。

助けて、とリトとヨークを見る。二人は、何かを言い合っているようだった。もしかして、もう助ける術は無いのだろうか。…嫌な汗が溢れ出る。
どうしよう、あたし、何が出来る。さっき守るとか言ったのに、思ったのに、結局助けれないなんて、そんなの嫌だ。でも、あたしには何も出来ることは思いつかない……!!



リトとヨークの喧騒が静かになってくる。
そしてヨークは……苦々しそうに、首を横に振った。

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