嫌いを好きにする方法 | ナノ

おやすみの過去(前)

目が覚めた。目論見通り安室さんの部屋から脱出できているので、夢から醒めたのだろう。

私にしては悪夢になる「安室さんと恋人だった夢」というのは、また友人に言うべきか否か迷った。私はコナンくんの夢を見て好きな人が出来たということは言っていたが、具体的に誰とは言っていない。きっと本堂くんはモブだろうし、安室さんだってぽっと出のキャラかもしれないから、言う必要もないと思ったから。そもそも夢なんて細かく教えることでもないしね。


「ということで、コナンくんの漫画を読み漁ることにしたが…」


ランチに立ち寄ったカフェに、本堂くんにそっくりの男子高校生がいた。ちなみに彼は斜め前の席。えっと、これは運命の出逢いということでいいのでしょうか。飲み物を受け取ろうと立ち上がった時のドジっ子加減、かっこ可愛いオーラといい、まさにリアル本堂くんがいる。これは逆ナンせよとの神の思し召しなんですよね。


「よし、私が先に食べ始めたし、食べ終わったら行く。よし、大丈夫、よし……」

「あ、お姉さん、ストロー落ちたよ」

「あ…ありがとうございます…よし…本堂くん…」

「え…?」

「コナン君、瑛祐君、行くよー?お父さんの待ち合わせに間に合わなくなっちゃう!」

「あ、うん、ごめん蘭姉ちゃん!」

「ま、待ってください蘭さん、コナンく、ってうぁあああ!」


……リアル本堂くんへ逆ナンを意気込んでたわず。なんかちっちゃな子から声をかけられたような気がするけど、私の視線は本堂くん(仮)に釘付け。本堂くん(仮)の呼ばれた名前が本堂くんと同じ「エイスケ」だったわず。そのお兄さんを呼んでたお姉さんは蘭そっくりだったわず。私に声をかけてきたちっちゃな男の子が呼んだ、お姉さんの名前も「ラン」だったわず。そのちっちゃい男の子の名前が、「エイスケ」くんが呼ぶ限り「コナン」だった、わず。

…え?いやいやいや、待って。あの三人、私の夢の中の友人、蘭、本堂くん、工藤(コナン)くんと顔そっくりじゃね?むしろ名前も同じだし本人じゃね?あれ?夢の中の話じゃなくて、今のこの現実が「コナン」の世界?ん?私が読んでた漫画は?「コナン」を語った友人は?なんなの?


「お姉さん、はい!これ落ちたストローの代わりに、ボクのあげる!」

「え…ありがとう、ございます…?」

「どういたしまして!じゃあね!」


私にストローをくれた男の子は、「ラン」さんが呼んでた「コナン」くん。…あれ?まあ、私が一方的に知ってるだけで、初対面だもんね。工藤くんにナチュラルに「お姉さん」って呼ばれたことにすっごい違和感。そして「コナン」くんが闇()を抱えていないただの小学生の天使ボーイに見えた。「コナン」くんはそのまま走ってお姉さんとお兄さんのところへ行ってしまった。

今の自分が夢の中の世界なのか、今まで普通に生活してたところなのかが分からなくなって、友人に電話をかけた。明晰夢が見られるほど、私は精神が強く、というか神経質になったのだろうか。


「あ、もしもし、急にごめんね」

「どうしたの、苗字ちゃんが電話って珍しいね」

「ううん、いや、あのさ。急に思ったんだけど、近々「名探偵コナン」の映画、過去作借りてうちで観ない?」

「ああいいねそれ!オールしよ!いつもの三人でみようね!」

「あ、うん、たのしみ…」

「なんか元気ないね。私、今外なんだけど、時間あるならお茶しない?」

「ああ、今ちょうど駅前のカフェにいるんだ」

「ほんと?じゃあ苗字ちゃんそこで待ってて!すぐ着くから、今行くね〜」

「うん…待ってるね」


友人がいる、ってことは現実世界。そうだよね、思い込みすぎ。何、疑心暗鬼になってるんだろう。さっきのは他人の空似か、本堂くんに会いたくてたまらなかった私が見た幻覚だろうな。

安堵したのか、いつの間にか力んでいた体から力が抜けていった。この十分だけで緊張して、頭使って、安心したなぁ。なんだか無駄に疲れてしまった。はぁ、友人が着くまですこしだけ目をつぶって休むとしよう。
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