攻防戦(前)
「今日は蘭さんとコナン君は、外出していますよ」「え…そうなんですか?」
「蘭さんは毛利先生のCM収録の付き添いで、コナン君は昨日からキャンプだとか」
「あれ?今日、蘭に呼ばれて来たんですけど…日付間違えたのかな?」
「いえ、蘭さんに、今日苗字さんがいらっしゃったら待って頂くように言付かっています」
「へ?あー…そうなんですか。何だか申し訳ないです、安室さんに留守番してもらうなんて」
「僕は先生の弟子ですから、留守番も仕事の一つですよ」
「大変ですねえ…あ、いつ頃帰ってくるのかご存知ですか?」
「流石にそこまでは僕も分かり兼ねますね…」
「ですよね…」
「早く戻ってほしいですか?」
「ええ、まあ、そりゃあ…」
「…実は、蘭さんが謀ってくれたんですよ」
「…え?何を、ですか?」
「貴女と二人きりになれるように」
「…!」
「はは、そんなに距離をおかないでください。疚しいことはしませんから」
「(蘭、私の気持ち知らないくせにこんなこと…!!)」
「ずっと、二人きりでお話ししたいと思っていました…苗字さんを想うと切なくて…貴女に、触れてもいいですか…?」
「あ、むろ、さん…」
「…ふふ、捕まえた。抱き締めると、か細さがよくわかります。もっと食べた方がいいですよ」
「(うううう後ろから抱き締められてるうう!!)」
「香水より、貴女の香りが良いです。シャンプー…の香りですかね?」
「あ、あ…あのっ!!」
「?何ですか?」
「く…首がくすぐったい…です」
「クスッ…感帯ですか、憶えておきます」
「…離してもらえると、助かります」
「じゃあ助けません。こちらを向いてください」
「…や、です」
「なら、向かせて差し上げます」
「へ…?…わっ」
「やっと顔を見ることができましたね」
「………」
「俯かないで、恥ずかしいなら目を閉じてください」
すっと顎を掬われ、私は観念したように目を閉じた。
「いい子ですね、名前…」
二人きりの静かな探偵事務所の中に、ちゅっ、とリップ音が響く。同時に、唇に柔らかい何かが触れたのを感じた。皮肉にも、その【何か】の正体が安室さんのそれと分かったのは、瞳を薄く開いて、安室さんの微笑んだ視線と重なった、数秒後のことだった。