02  




目を覚ますと、知らないホテルのふかふかベッドの上にいた。
それも高級ホテル、天国ってこんなところなのか
確かにこのふわっふわのベッドは至高だ、カーテンの隙間から漏れ出す日光とそよそよと流れる風が心地よくてつい微睡んでしまう。
いつもの朝のように眼鏡をゴソゴソと手探りで探す。
いや、でも…。なんか眼鏡がないのに眼球のピントが合っているぞ、
不思議な感覚だ、この間食べたブルーベリーの効果だろうか
あぁ、もうなんか二度寝でもしようかと思ったときシャワー室から男性が出てきた
水で張り付いたTシャツ、鍛えているのだろう。肉体美というのはこういう体をいうのだろう。
顔を見ると私は絶句した。絶句するほど美形だった、長い睫におおわれている瞳は綺麗な緑。吸い込まれそうなその瞳、ずっと見ていたくなる
あぁ、この人は天使なのかもしれない。
思わず頬に手を伸ばし、天使の眼尻をこするとまつ毛をぴくりと動かす

「天使って触れるんだ…。」
「まぁ、天使は幽霊というわけではないからな。
…というか俺は天使でもない」

あれれ、天使じゃないのか。

「じゃああなたも死んだんですか」
「いや。」

あらら、死んでもいないのか。

「と、いうことはー…」
「…あぁ。お前は死んでいない」

ふむふむ。私は死んでいないと…。

バッと体を思い切り起こし目の前にいる美形に距離をとる。
そして全力疾走でホテルのドアに向かう、
脱出を図ろうとしたのだがそれもむなしく男のたくましい腕によってまた部屋へ引きずり込まれる。

「ゆ、ゆゆゆ誘拐犯ですか!?うちは中流家庭なので身代金は用意できません!!」
「違う。落ち着け」
「いやいやどうやって落ち着けというのですか無理無理!」

押さえつけられた腕を思い切り引き離そうとするが男の腕一本で阻止されてしまう
確かに私は人生が退屈といったがこんなハプニングは望んでいないぞ

「は、離せッ…!!」

そう叫ぶと突然目の前の男が一瞬、硬直したと思えば突然動き出す。
男は先ほどとは全く違う様子だった、何故か困惑した顔で私を見ている

「なんだ…!?」
「…は?」

なになに?
男はいきなりあたりをきょろきょろと見ている。
力が緩んだすきに手を振りほどきホテルを出て、そりゃあもうむちゃくちゃ走った
がむしゃらに走ると見覚えのある道に着き、ほっと息をつく。

「はぁ、何だったんだろ…。」

ドクドクと心臓が脈打つ。何故だろう、なんでこんなに怖いのに楽しいのだろう
自分が自分で怖い、私はこんな性格だっただろうか。

「まぁ、とりあえずあれが夢でよかったかな」

体にどこもあの矢に射抜かれた痕跡はない、あれは夢だったのだ。
いくら現実離れした世界を望んだとはいえ死ぬのはごめんだ
夢なのは少し寂しいがとりあえず安心した。
家に帰ってシャワーを浴びて、両親と祖父母みんなで食卓を囲む
やっぱりあのことは家族に言わないでおきたい、心配させるのが嫌だ

「…いや。あれはもしかしたら矢で貫かれたのは夢ではなく、
路上で倒れていた私をあの人が介抱してくれたとか…」

だとすると私はものすごーく失礼なことをしたことになる。
いや、でも矢で射抜かれた傷跡もないし…。
でもじゃあなんで私は気を失っていたんだ?
それにあんな高級ホテルにいて身代金目的の誘拐犯とは考えられない
身体目的だとしてもあんな綺麗な顔ならわざわざあんなことしなくても選り取り見取りのはず…。
うーむ不思議だ。不思議だなぁ…

「こんな不思議なこと…」

深入りしたくなるじゃないか!!
だがあの男に会おうともあのホテルの道はもう覚えていない

「まぁいいや、明日考えよう。」

明後日には帰ることになるから明日見つけ出さなきゃもう二度と、今日みたいな奇妙な経験とはおさらばになるだろう、そんな気がする。


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