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今にも崩れそうなボロいアパート。名前の部屋はワンルームで風呂トイレ共同
こんな所には初めて来たのか承太郎は少々驚いていた。

「まぁ、入れよ。」
相変わらず自分に対して嫌悪感丸出しの名前
だが先ほどのことでそれが少し和らいでいる気がした。
名前の部屋は特に飾りっ気のない部屋、
汚いボロボロの壁に何年も使い込まれた畳。あるのは最低限の家具と仏壇だけだった。

「父様、母様。ただいま」
仏壇の前で線香を焚いて、いままでむっすりとしていた顔が花が咲いたように綻ぶ。
それは、承太郎が見た初めての笑顔だった。
不意にポツリ、綺麗だな。と思ったがそんな自分に驚き咳払いをする。
そんな承太郎の様子を名前は怪訝な顔をして見ている
あぁまた不機嫌な顔になってしまったと多少残念な気持ちが残るがそれをパッパッと手で振り払う動作をして誤魔化す。

「ちょっと用意するものがあるから、
そこら辺で待っていてくれ」
名前はすぐ帰るしお茶は出さなくていいか、と思うが
『こら、お客様にはおもてなししなさい!』という母の声が聞こえたような気がして、
クスリと笑いながら台所で紅茶を用意する。
ティーカップとティーポットはこの家に似つかわしくないほど高価そうなもの
入れ方もジャンピングをさせたり蒸らしたり本格的なようだ
茶葉もいいものをつかっているのか部屋中にいい香りが充満する。

「ミルクと砂糖はいるか?」
「…いいや。いらねぇぜ」
紅茶のいい香りが刺々した心が癒され、口調も柔らかくなっている。
ティーカップを直接承太郎に手渡すと静かにそれを飲み始める。

「…うまいな。」
承太郎の家はアメリカの家系だし家も和風だからコーヒーかお茶くらいしか飲まない。
こういったお本格的な紅茶は初めてで、承太郎がまた機会があれば飲みたいと思うほど美味しかった。
(これなら料金を払ってもいいぜ)
と名前に言ったらまた睨まれそうなことを思ってみる。

名前はというとベルトでつけるタイプの大きめのレッグバッグに先ほどのメモを入れ
白紙の紙とペンを入れる。

「白紙は何に必要なんだ?」
「うわっ」
急に背後に覗き込んできた承太郎に声をあげて驚く。
片手には空のティーカップ。もう飲み干したのかとさらに驚きを覚える

「これはただの趣味だよ。絵を描くのが好きなんだ」
承太郎は白紙が入っていた押入れを見ると、キャンパスや水彩画、油絵にインクだったりつけペンだったり色々なありとあらゆる画材がある。
隅の方には既に完成された作品もある。

「待っている間見てもいいか、それ。」
完成された作品を指さしてそういうと名前は難しそうな顔をして考え込んだが、
最終的には「どうぞ。」といって許可をくれた。
名前は自分の作品を見られるのに抵抗があったが、承太郎があまりにも興味津々という顔をするもんだからつい許可してしまった。
どさっと出された作品たちは何年間も溜めこんだような量だ、
本当に長年描いてきたことがわかる。
一番上の作品は食べ物の絵。すごくリアリティで今にも絵から飛び出してきそうなほどだ
その次は豪華な家だった。門には苗字という表札が描いてあるのが不思議だった。

「それは両親が亡くなる前に住んでいたところだ」
承太郎の疑問を察したのか名前は静かに答える。
両親はそれなりの富豪だったのか。うちとは違い洋風の豪邸だ、今のこの住居をみると富豪の面影は皆無
貯金はないのかと疑問をもったが家庭の事情につっこむべきではないとまた静かに作品を眺める。
次は両親の絵、これは何枚も何枚も書かれている。
あぁ、この頃に戻りたいのだろう。両親に会いたいのだろう。そう思うとチクリと承太郎は心が痛んだ。
両親の絵の次は男の絵、黒髪で筋肉質な男だ。
瞳はエメラルドグリーン、人の優しそうな顔をしている。
なんだか自分に似ているような気もするし、ジョセフにも面影がある。

「これって…もしかしてジョナサンとかいうやつか?」
「おいおい、自分の祖先をそんな言い方するなよ。
あ、そうだ。これ持っていこう、ジョセフに持って行ったら証拠になるかもしれない」
そんなことをしなくてもあのじじいはコイツのことを信頼しているというのに、
ジョナサンの絵を眺める琥珀色の瞳はチカチカと輝いて、とても綺麗だった。
しばらく見つめていると名前はこちらを睨みつけて「なにガン飛ばしてんだ。」と、学年首席とは思えない柄の悪さだ。
他の作品はもう家族の絵とジョナサンの絵ばかり。
この時間ででこれを全て見るのは無理だな、とそろそろ名前の準備が終わりそうなのを見越してやめにするかと思ったが一番下の方はやけに古く、他と比べるとボロくて安そうだった。
そこを抜き取ってみてみると子供の頃描いたような絵だった、書いてある日付を見てみると今から15年前のもの。自分と同じ学年だから2歳の頃から書き溜めたものだろうと思うと感銘をうける。今とは比べ物にならないくらい低い画力だが、2歳にしては上手い元々才能があったのだろう

その頃から書いている絵は食べ物や、毛布、暖炉など日用品がほとんど。
真ん中に子供、左右に男女の大人が描いてある絵もよくある頻度で見当たる
真ん中の子供には「me」と、矢印で指してある、真ん中の子供に自分と書いてあるということはこれは名前、左右は両親だと思うが。顔はぐりぐりと黒で塗りつぶされている。
一目では狂気的な絵かと思われるが、何故か見るたびに悲しくなる絵だった。
この絵の他にもジョナサンと思われる男の絵もいくつかある。


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