どうしようもない悲劇  




時は過ぎ、中学の入学式。
皆が楽しそうに写真を撮ったりしているなか、私だけがつまらなそうな顔をしている。
なんでって、そりゃ両親がいないからだ

「来るって言ってたのにな」

多少不貞腐れ気味に呟くと、どこかで私の名前を呼んでいる声がする。
学校側が入学式用に用意しているパイプ椅子に腰掛けていた私は「苗字名前さんはいる!?」と焦った声を聞いて立ち上がる。

「はい。私が苗字ですけど…」
「落ち着いて聞いてね…。あなたの両親が……」


”亡くなられたわ…。”

時が止まったような錯覚だった。
どうやら私の両親は仕事で不慮の事故にあい、即死。
しばらくして日本に送られたらしい。
学校に連絡がついたのも両親の持ち物から個人情報を特定したのだろう。

私はそれから、停止した頭で流されるまま手続きなんかを済ませた。
葬式の最中、私は両親の写真を抱えた。
親戚はいない、いるのは両親の友達から知り合い程度の中の人までいた
畳の上、仏壇の前で正座になりながら私は考えた。
この葬式の費用とお墓の費用。
それに高校の学費やそれからの生活費…

こんな時にこんな事を考えてしまう親不孝な私でごめんなさい、でも母さんと父さんが亡くなった後。私はどうすればいいかわかりません
私は悲しくて悲しくて、号泣でもするかと思ったが、不思議と涙は出なかった。

「あの子、これからどうするの?」
「親戚もいないし、誰も引き取らないだろう」
「じゃあ施設に入るのかしらねぇ…」

可哀想に。哀れみの言葉が私の耳に木霊する
あぁそう、私は可哀想なの。だから誰か何とかしてください。
この悲しみとこれからの不安をどうすればわからなくてありもしない救いの手に縋ってみる。



「……君。引き取り手がいないんだって?」

座っている私と同じ目線に膝たちするおじいさん。この人も両親の友達なのだろうか
グリーンの綺麗な瞳だ、外国人って初めて間近で見たな。
まぁ、今はそんなのどうでもいいけど。

「はい…。多分施設に…入ると、思います」

声が震えてしまった、泣いているわけでもないのに震える唇を必死に噛んでそれを止めようとする。
目の前のおじいさんはこの場にいる誰よりも悲しい顔をしている。今にも涙がでそうな表情だった。

そして私を抱きしめた。
おじいさんだが鍛えてあるのか筋肉ががっしりと固くて、でも暖かく。優しかった

「もし君がよければ…うちの養子にならんか
いや、正確にはわしの娘の養子にじゃが…
大丈夫だ、娘も承諾している。」


何とも信じられない話だった、
まさか私に救いの手を差し伸べてくれるなんて思いもしなかった。
今、目の前のおじいさんは私にとって神様と同然のものとなった。

「わしが引き取りたいのは山々なんだが…わしの家はアメリカにあるんじゃ…」

確かにそうなるとこの不安な心で言葉の通じない所に行くのは恐怖でしかない。
私は二つ返事で彼の娘の養子になることを決めた。
何故、おじいさんがこんな親切な事をしてくれるのかはわからなかったがこれに甘えない手はない。

「君の両親は…君の入学式行けなかった事をとても悔いていたそうじゃ…
遺品に君の入学祝いが入っていたよ…」

彼の手には綺麗な包装をした箱があった。
中には綺麗なオーシャンブルーの石がついた星型のネックレスだ。ひと目で普段買えないような高い代物というのがらわかる。

「君の両親は…最後まで君のことを憂いていたよ。もっと一緒にいればよかった、と」
「……っ」

込み上げてくる深い悲しみに耐えきれず口から嗚咽が漏れる。
私はこの瞬間初めて、両親の死を実感したのかもしれない。
しゃくりをあげて泣きわめいていると、おじいさんは抱きしめながら背中をさすってくれた。


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