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【 後日談5(終) 】

「ミナト先生!大変です!ナマエさんが病院に運ばれました……!」

カカシが火影室に荒々しく乗り込んできたかと思えば第一声がこれだから、俺は持っていたペンを床に落とし驚くことしかできなかった。ナマエが病院に?予定日まではまだ日があるはずだ。何事だ、もしかしたら一大事なのではないか、俺には何ができる、俺にできること…

「ミナト先生!!」
「あ、うん、ありがとうカカシ」
「何をボサッとしてるんです!病院に!」
「そ、そうだよね、うん」

正直にいうと、これまで俺は結局ナマエのために何一つしてやれなかった。つわりで苦しんでいても身代わりになることなんてできないし、きっとナマエが俺に側にいて欲しいと思っていた時に側に居てやれなかった。ナマエは優しいからそれに対して文句なんて言わないけれど、寂しい思いをさせていただろう。こんな俺が行ったところでなんになる…?

「何を悩んでるのか知りませんけどね、ナマエさんの旦那はミナト先生しかいないし、お腹の子供の父親はあなただけなんだからさっさとして下さい」
「カカシ……」
「ナマエさんは誰よりも先生に側に居て欲しい筈です」

この子は本当にもう…。元々しっかりはしていたけど、ここまでだとは。誰よりも辛い思いをしてきた子だからこそ、カカシは他人の気持ちを考えることができるんだろう。

「俺先に行ってますからね!」
「うん、俺も引き継ぎが終わったらすぐに向かうよ」

カカシが出て行った後、カレンダーを見やる。そうか、今日は十月十日か。秋晴れのいい日だ。

その後たまたま火影室にやってきたシカクにナマエが運ばれたから俺も病院に行きたい旨を伝えると、鬼の様な形相であとはやっておくからさっさと行ってこいと一喝された。本当に…俺はこいつに助けられっぱなしだ。

瞬身で病院に飛ぶと先に着いていたらしいカカシに案内された。ナマエはすでに分娩室に入っているらしい。予定よりは少し早いけど、子供の状態にも問題はないから自然の摂理に任せて出産するらしい。

「さっきからナマエさんの苦しそうな声が響いてて、聞いてるだけで気が狂いそうです」
「男は出産の痛みには耐えられないらしいから。そんな痛みを経験しながらナマエは子供を産むんだ」

カカシの言う通り、ナマエの苦しそうな声ばかりが耳に入ってくる。俺はいてもたってもいられなくて、近くにいた看護婦さんに頼んで分娩室に入れてもらった。

「ナマエ…!」
「ミ、ナト…っ」
「俺がついてるよ、ね、」
「ありがとう…」

俺に心配かけまいと弱々しい笑顔を見せたナマエだけど、その表情はすぐに苦悶の表情に変わる。そうだよね、痛くてたまらないよね、ツライよね、でも…もう少しで俺たちの子供に会えるよ。ナマエの手をギュッと握りしめると、ナマエの瞳から涙がこぼれた。俺は今、少しでもナマエの力になれているのだろうか。

「ナマエ…がんばれ…っ!」

ナマエが泣きながら今までにないくらいの力で俺の手を握りしめた瞬間、奇跡の様な産声が聞こえた。

「はぁはぁはぁ…生まれた…?」
「元気な男の子ですよ!」
「ナマエ!!!生まれたよ!!!俺たちの息子が……っ!!」
「ミナト…っ…」
「ありがとう、ありがとう…っ」

俺を、この子の父にしてくれて、本当に本当に本当にありがとう。

苦しみから解き放たれ、生まれたばかりの我が子を胸に抱き、涙を流しながら微笑むナマエはさながら聖母のようだった。こんなにも幸せな光景を俺は未だ嘗て見たことがない。

「初めまして…あなたのお母さんだよ」

今日はこの子が生まれた日、
そして俺とナマエが親になった記念日だ。