黒尾とは高校の時に二回セックスした。
別に理由なんてなくて、お互いに相手から逃げられた時期と溜まった欲求を発散したい時期が被ったからなんとなく。ただそれだけ。
高校を卒業してからはお互い別々の大学に進学して会うことは殆どなくなった。高校の同級生だけの集まりとかあるにはあったけど、彼氏がいたりレポート作成に忙しかったりで参加できずじまいに終わった。
そんなこんなで四年も会っていなかったのに、再会は思いの外あっさりしたものだった。
会社の同期が主催した合コン。今は彼氏もいないし、と二つ返事で参加を決めた合コンに黒尾もいたのだ。
「名前でーす」
「名前ちゃんって言うんだ、かわいいね」
ちやほやしてくれる男が一人いたが、私のタイプではなかった。酒を飲みながら適当に相槌を打っていると、その男は嬉しそうに話しを続けた。
(さっきも聞いたよ、それ)
酔いが回っているせいか同じ話ばかりを繰り返す男にいい加減嫌気がさし、ちょっとお手洗いにと席を立った。私が席を立ったのと同時に黒尾も席を立ったことに気付かないフリをして私は何の用もないお手洗いへと向かった。
「名前」
「黒尾、久しぶりだね」
「いや〜、ビックリしたな。まさかお前がいるなんて」
「その割には顔に出てなかったよ。相変わらずのポーカーフェイス」
「お前があまりにも綺麗になっててビビったけどな。知り合いっつーと変に絡まれそうだったし」
「お上手ね」
「もうお前飽きてるだろ?抜けね?」
「いいよ」
黒尾はニヤッと笑って「この子具合悪いみたいだから駅まで送ってくるわ」と二人分の飲み代をおいて私を連れて外に出た。
「お金、いいのに」
「いいってこのくらい」
なんとなく繋いだ手はそのままで私と黒尾は風が冷たい夜の街を歩いた。前から大きな男だったが更に背が高くなっているような気がする。
「ねえ、また大きくなった?」
「少し伸びたかもな。お前はこんなちっこかったか?」
「だから黒尾の背が伸びたんだって」
他愛ない会話をしながらも黒尾は目的を持って歩きを進めているようだった。
「どこ行くの?飲み直し?」
「あー…俺ん家。いや?」
「ううん」
気遣わしげに向けられた視線。別に嫌でもなかったのですぐにオーケーを出した。近くのコンビニで酒を買って、たどり着いた部屋は余計なものは何もないモノトーンでまとめられたシンプルな部屋だった。
酒を飲み始めてから距離が近づくまで20分もかからなかった。最初は隣同士座って飲んでいたのに、いつの間にか肩が触れ合うほどに近くなり、やがて私は黒尾の足の間に。それから黒尾に向きを変えられ見つめ合い唇が重なると同時に、大きな手が服の中に入ってくる。
「はぁ…はぁ…名前…」
「んん…黒尾、…んっ」
家に呼んだ、家に来たイコールそういうことなのだろう。別に相手をするのは初めてでは無いし、酒も入ってとにかくそういうことをするにはもってこいの雰囲気だった。
「かわいいな、おまえ…」
「あっ」
本当に愛おしいものを見るような目で私を見つめるから調子が狂う。恥ずかしくなって首に腕を回して顔が見えないようにしっかり抱きつくと、黒尾が息を飲んだのがわかった。
「移動する」
黒尾はそのまま私を抱き上げベッドに押し倒した。私を見下ろしてシャツを脱ぐ仕草がたまらなくいやらしい。全てを脱ぎ去り私の服も奪った黒尾は照れたように笑い、私の肌に唇を寄せた。
「お前こんな可愛かったっけ」
「ん…っ…失礼ね…あっ」
「昔から可愛かったけど、んっ…めちゃくちゃ可愛い」
私たち付き合ってるんじゃ無いかと錯覚してしまいそうなくらいの甘い雰囲気に当てられそうになる。優しく食まれる胸、優しく撫でられる腰、酔っているせいか感度が増している気がして、どうにかなってしまいそうだ。
「聞こえる?すげー音」
「んあっ!や、めて…っ」
「ビチャビチャになってる」
容赦無く私のナカをかき回す細く綺麗な指。黒尾にも気持ちよくなってもらいたい一心で下半身に手を伸ばし、大きく硬くなったソレを握る。上下にこすると黒尾の吐息もかなり荒くなった。
「名前…ヤベェ…っ…入れていいか」
「うん、きて」
ゴムなんて持ち合わせてなかったが、それでもよかった。早く繋がってしまいたくて、黒尾を私の中に閉じ込めてしまいたくて。
「う…っ…ああっ…大きいっ」
「そりゃどうも…っ」
正直セックス自体かなり久々だったから、黒尾のソレがものすごく大きく感じた。一度奥まで突かれただけで体の奥の方から熱が染み出してどうしようもなく欲しくて。黒尾のリズムに合わせて腰を揺らせば彼は嬉しそうに笑った。
「名前…っ…あんま可愛いことすんな」
「はぁはぁ…んあ!…奥っ…当たる…!」
「名前…好きだぜ」
「!」
突然の告白に何か言わなくてはと思った瞬間唇が重なり、それは大胆に深くなる。唾液が口の端からこぼれても気にする余裕もないくらいの熱烈なキスに頭の芯から痺れてしまった。
「はぁはぁはぁ…名前、一回でいいから名前呼んで」
「はぁはぁっ…てつ、ろ、」
「今のすっげーキタ」
名前を呼んだだけなのに嬉しそうに目を細める黒尾が眩しくて、とてもキラキラして見えた。
それからお互いに達してセックスが終わるまでにそう時間はかからなかった。それでも私の心はとても満たされていた。
「はぁー…しんど…」
「ふふ、お疲れ様」
繋がったまま私の中で果て、そのまま倒れ込んできた黒尾の頭をポンポンと撫でる。耳元で「鉄朗」と呼ぶと腰がピクッと震えた。
「名前、反則」
「反則?」
「可愛すぎてもう一回シたくなった」
「えー」
「だめ?」
「そうだなぁ…責任取ってくれる約束してくれるならいいよ」
「え、そんなことでいいの?っていうかもう俺は今すぐお前を嫁にしたいくらいだ」
「鉄朗って私のこと好きだったの?」
「いつからとかわかんねェ。でも今は間違いなく名前が好き」
幸せそうに笑う鉄朗の熱を再び受け入れ、私は幸福に浸るのだった。
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