交換条件

カルデアの電気系統のシステムに不具合が発生したらしい。もちろんこれだけ大きな施設なのだから予備電力くらいあるのだが、それでも復旧の目処が立つまでは電力の使用は控えた方がいいという話になった。とはいえ、常に莫大な量の情報を管理しているシステムへの電力供給を控える訳にもいかず、必然的に日常生活で使っている、無くてもいいものを節約することになった。

例を挙げるなら、レクリエーションルームのゲーム機や各部屋に備えられたエアコン、キッチンの家電製品などがその対象だ。

「ううう…でもさすがに寒いよ」

ドクターやダヴィンチちゃんたちが必死に復旧作業をしてくれているので文句を言うわけにはいかず、腕をさすりながら少しでも暖かい場所を求めて歩いていると、前方からファラオが歩いてきていた。

「どうしたんですか?こんなところにいるの珍しいですね」
「電力供給がなんたらでシミュレーターを使えないというのでな。久々にカルデアの中を散歩していたところよ」
「そっか、そっちも節電対象なんですね」
「名前、随分寒そうだな」
「はい…節電の影響でエアコンも使えなくて。少しでも暖かい場所を目指して彷徨っていたところです」
「ほう。ならば余に考えがある。ついて参れ」

ファラオはそういうと、颯爽とマントを翻して歩いて行く。確かこの先にあるのは彼の部屋ではないか。

「私も入っていいんですか?」
「良い、許す」
「お邪魔します…」

彼は部屋に入るなり身につけていた装飾品を外すと、おもむろにベッドに腰掛け、隣をポンと叩いた。

「今日は特別だ。余の隣に座することを許そう」
「は、はぁ…」

言われた通りに隣に腰掛けると、不思議な暖かさが体を包んだ。ああ、この人は太陽王だったな。

「王様、暖かいですね」
「特別に余で暖をとることを許す」
「光栄にございます」
「だが与えられるばかりでは成り立ち得ないのが世の常というもの。お主は余に何を与える?」
「王様は何か欲しいものがありますか?」
「そうさな、今敢えて言うなら魔力といったところか。魔力供給も控えられているのでな、些か調子が悪い」
「魔力供給か…でも、あれですよね、随分原始的な方法というか…」
「なに、別に吸血しようというわけではない。その口を少しばかり貸すが良い」
「キス?」
「ああ。不満か?」
「い、いえ。もっとすごいこと言われるかと思ってたから」
「性交のほうが良いと申すか」
「いえ、とんでもない。キスでお願いします」

この人、ファラオとこういうことをするのは初めてのことだ。歴史上の大英雄、最愛の妻ネフェルタリの他に数多の妾がいて、子どもの数は百人以上だと聞いたことがある。きっと上手いんだろうな、なんて想像していると、肩を抱かれて唇が重ねられた。彼の舌が私の口内で縦横無尽に動き回り、その口付けの気持ちよさに身体中の筋肉が弛緩してしまう。倒れてしまわないようにと必死に彼の体にしがみつくと、熱を与えるようにきつく抱きしめられた。これじゃ温まるどころか暑くて仕方がない。

「はぁはぁ…っ」
「中々の魔力だ、名前よ」
「お役に立てて光栄です…」
「どうだ、体も温まったか」
「はい。暑いくらいです」
「だがそれも一時のこと。再び冷えてしまわぬよう暫くこうしているが良い」

ここに座れと指示され、恐れ多くもファラオの足の間に腰掛けると、後ろから覆い被さるように抱きしめられた。やはり太陽王の体温は高く、電力が復旧するまで、その陽だまりのような暖かさを堪能した。


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