この世界での日常は私が生きてきた世界では非日常でしかなくて、何度も目の当たりにしてきたのに怖くて怖くて。ラックさんが撃たれたと聞くのも、もう何度目かわからない程なのに不安で、怖くて、悲しくて。
「ラックさん…!」
「やぁ、名前」
「やぁ、って…!心配したんですから!」
「それはそれは、すみません」
その広い胸に抱きつくと、優しく頭を撫でてくれるその手が好き。微笑んでくれる顔が好き。私に愛を囁いてくれるその声が好き。…失うことはないとわかってはいてもやはり怖いもの怖い。でも私のそんな不安なんてこの人には伝わっていないのだろう。
「…火薬のにおい」
「そんな顔をしないでください」
胸に顔を埋めると穴のあいたシャツから火薬のにおいがした。だけど、血の臭いはしないし、傷もない。彼は不死者なのだから。
ガンドールのアジトのソファに並んで座る。愛しい彼が紅茶を差し出してくれたのは数分前のことだ。ソレに口をつけることなく、お互いに沈黙したまま何分も過ぎてしまった。
「…怒っていますか」
「ラックさんが死なないのはわかってる。仕事柄こういうことが起こるのもわかってる。…わかってるけど、やっぱり好きな人が傷つくところなんて見たくない…!」
「そんな顔をしないでください。可愛い顔が台無しです」
「ラックさん今そんな話しを、んっ!」
「んっ……ほら、あなたはその顔のほうが素敵です」
「もうっ」
怒っていたはずなのに、ラックさんからのキス一つでこんなにもふやけてしまう自分が嫌だ。悔しい、
「名前?…!…」
「びっくりしたでしょ」
お返しに普段は滅多にしないけど私からラックさんにキスをした。ラックさんはひどく驚いた顔。いたずら成功。
「次怪我したら一週間キスしない」
「それは困りましたね」
「怪我しないって約束して」
「約束はできませんが善処します」
「・・・イジワル」
それから見つめあって何度も何度もキスをした。……キースさんのわざとらしい咳ばらいが聞こえるまでは。
「ご、ごめんなさい」
「ラック、家帰ってからやれ」
「ベル兄…」
結局ラックさんからのキス一つで何で怒っていたかもわからなくなる私はこの人に甘いのかもしれない。
(さぁ、帰って続きをしましょうか)
(今日は怒ってるからしないもん)
(へぇ…それは仕方ない。それでは今日は別々に眠ることにしましょう)
(そ、それはヤダ!…一緒に寝たい、です)
(可愛い人ですね、あなたは)
(またそうやってからかう!)
(本音ですよ)
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