あの御方を「梵」と呼んでいた頃がひどく懐かしい。政宗様のお父上の家臣であった父に連れられてよく城に足を運んでいたあの頃も決して対等と言える関係ではなかったが…今の私達の関係はあの頃よりもっと対等ではなくなってしまった。
たかが女中の身分である私にはお慕いしている気持ちを伝えることもできない程に遠く、手の届かない人。傍に居ることが出来るなら何でもいい、だから私はあの人の力になりたいとそう思った。
「政宗様、名前めは貴方様の力になりとうございます。ですから…私を兵としてこの伊達軍において下さい」
「ha!バカなこと言ってんじゃねェ。テメェは女だろ。軍に身を置いて何の役に立つってんだ」
「私は…!どんな立場であろうと…傍に居たいのです、」
「…小十郎、この間とっ捕まえた奴を連れてこい」
「何をなさるおつもりです」
「名前、覚悟があるなら俺の目の前で捕虜を殺して見せろ」
「…っ」
「政宗様!名前にそのような…」
「やっぱり覚悟出来てねェじゃねェかよ。戦場をナメるな」
やっぱり私に人を殺す勇気なんかなくて、結局大切な人を守る道具にすらなれないなんて情けない。
「名前」
「…はい」
「お前は女だ」
「…はい」
「戦場へ出る必要なんかねェだろ?」
「私だって政宗様の役に立ちたい」
「俺は…お前が待っててくれるからこの城へ帰ってこれる」
「え?」
「I love you so much.You see?」
「今何とおっしゃったのです?」
「俺がお前の気持ちに気づかないほど鈍感な奴だとでも?」
「!」
「愛してる、って言ったんだ」
「政宗、様…っ」
「好いた女を戦場に連れていくなんて男の風上にも置けねェよ。お前は城で良い子にして俺を待ってな」
「勿体なきお言葉…っ」
「泣くな、可愛い顔が台無しだぜkitty?」
「私も南蛮語を学びとうございます、政宗様のお言葉がわからないなんて…悔しい」
「じゃkissから教えてやろうか」
「きす?」
―――チュ
「これがkissだ」
「まままま政宗様…!突然何をっ!」
「もっとdeepなのも教えてやろうか?」
「でぃーぷ?」
「深いっつー意味だ」
「!」
顔を真っ赤にして照れる私を空高く飛ぶ鳶が嘲笑っているような、そんな気がした。
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