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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -

個性・猫

「ただいま…」
「消太さん、おかえりなさい!」
「いい子にしてたか」
「もちろん」

褒めて褒めてと頭をグリグリと押し付けてくるこの女の個性は猫。異形型ではあるが、常時猫の姿をしているわけではなく、普段はちゃんと人間だ。ただ仕草や癖は猫のそれと大差はない。

「ご飯作ったんですけど食べますか?」
「先に風呂入っていいか」
「はい」
「お前も入る?」
「いや、遠慮します」

猫が風呂嫌いなのはよくある話で、こいつも例に漏れず風呂が苦手だ。湯船に浸かるなんてのはもってのほからしく、普段はもっぱらシャワーで済ませているそうだ。俺という存在がいなければシャワーの回数も減らしたいらしいのだが、俺への配慮からなのか毎日シャワーを欠かさないなにかと健気な可愛いやつだ。まあ、猫らしく気まぐれなやつでもあるが。イエスとノーは割とはっきりしている。

風呂から上がると、名前が嬉しそうに擦り寄ってくる。適当に頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めて喉をゴロゴロと鳴らす。

「名前はもう飯食った?」
「ううん、消太さんのこと待ってた」
「ありがとな」

名前が食べやすいように少しだけ温度が下がった飯を一緒に食ってダラダラとテレビを見る。名前はようやく猫の姿になって俺のあぐらの上に乗っかった。

「肉球触ってもいいか」
「いやだって言っても触るのに」
「まあな」

名前にとって肉球は性感帯らしく、触るといつもふにゃふにゃにとろけてしまう。構わず触り続けていると、ボフンと人型に戻って潤んだ瞳で俺を見つめる。この瞬間が可愛くてついいじめてしまうのだ。

「うう…消太さんの意地悪」
「好きだろ、触られるの。感じてる」
「当たり前です…!好きな人に触られて感じないわけないじゃないですか」
「そうだな」
「消太さん、ベッドいきましょ?ね?」
「まだニュース見たいんだけど」
「お願い」

猫型と人型の中間。
器用に人間の姿に耳と尻尾を生やしたその姿は、俺にしか見せない秘密の姿だ。世の中の人間が妄想に妄想を重ねて生み出した理想の姿。俺はそれをタダで楽しむことができる。猫好きにとってこんなに幸せなことはあるだろうか。

「消太さんお願い」

言っておくが名前は今現在衣服をまとっていない。猫の姿になる時に人間の姿の時に身に付けていた衣服は脱げてしまうので、そこから戻れば全裸なのは仕方のないことだ。

つまり、今名前は裸プラス猫耳プラス尻尾というとてつもなくエロい格好で俺の足に跨りベッドへと誘っているわけである。

「もう濡らしてるのか」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「俺のせいだろうな」
「わかってて聞くのやめてください」

こいつとの会話は無駄が多く合理性に欠けている。がしかし、それを楽しんでいる俺がいる。

ザラザラの舌で懇願するように俺の首を舐めた名前がいじらしく、庇護欲に駆られる。この世界でお前を誰よりも愛しているのは俺で、お前を守るのは俺の役目だ。

「仕方ない。とりあえず…」

ベッドに行く前に一度いかせてやろうかと濡れたそこに指を這わせた瞬間、テーブルの上に放置していた携帯からけたたましい着信音が響いた。

「はい、相澤」
「相澤くん、C地区で敵よ。今から出られる?」
「すぐに向かいます」

こんな時に限って敵の出現だ。まあ俺は雄英の教師である以前にプロヒーロー・イレイザーヘッドなのだから行かないわけにはいかない。

「消太さん、怪我しないでね」
「お前は物分かりがよすぎる」

急に構ってやれなくなった申し訳なさから後ろ髪を引かれる思いだが、気丈に送り出そうとしてくれている名前の気持ちを無下にするわけにはいかず、急いで現場に向かう準備をする。

「名前」
「ん?なんですか?」
「帰ってきたら抱いてやるから大人しくしてろよ」

尻尾を真上にピンと立てて喜んでいる様子の名前。言葉に出さなくても体は素直に反応しているらしい。

迫る敵に思考を飛ばしながらも、さっさと敵を倒して名前のために早く帰ってきたいと思えるのは敵と戦う上で最も合理的なような気がしていた。


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