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愛妻家爆豪勝己

出会いは高校二年の時。街中に突然現れた敵に襲われていた名前を爆豪が助けたのがきっかけだ。それから十年弱、今では名前の名字も爆豪になり、二人はひとつ屋根の下で仲良く暮らしている。仲良く…、

「パパ〜、明日の朝パンでいい?」
「俺はお前のパパじゃねえ」
「そんな怖い顔しないでよ、ね?」
「じゃあ二度とパパと呼ぶんじゃねえ」
「つい出ちゃうんだもん」
「何度言えばわかるんだよ」
「ごめんごめん、勝己くん」
「…わかりゃいい」

爆豪勝己、今をときめくプロヒーローだ。
同期にはあのヒーローデクやショートがいる。
幼少の頃からナンバーワンヒーローになることを夢見ていた少年は、その持ち前の派手な個性とストイックさを生かし、努力に努力を重ねて誰もが認めるヒーローになった。

ただ、そんな彼にも弱点はあった。妻である名前だ。妻の何気ないひとことで彼の気分は上がったり下がったりする。

ことの始まりは前述のとおりで、お互いの一目惚れだった。高校を卒業すると同時に交際をスタートさせ、忙しい爆豪のために名前は身の回りのすべてのことを請け負った。二人が成人した年に婚姻届を提出し、一年後には子どもが生まれた。そしてそれをきっかけに名前は爆豪のことを時折パパと呼ぶようになったのだが、爆豪はこれが気に入らない。もとよりお互いの一目惚れで始まった関係ではあるが、爆豪の妻に対する愛情は日増しに大きくなる一方でとどまるところを知らない。それ故、子どもが生まれたことによって自分が性愛の対象から外れてしまうことがなりより許せなかった。もちろん名前にそんな気はないのだが。

「勝己くん明日はお休みだよね」
「ああ」
「保育園に預けるのやめてみんなでどこかに行く?」
「いや…」
「ん?何かしたいことある?」
「…たまにはお前と二人で過ごしてぇ」
「う、うん、わかった」
「なに緊張してんだよ」
「だって勝己くんと二人でなんて久しぶりだし…!最近勝己くんずっと忙しかったから夢みたい」
「あんまり可愛いこと言ってんじゃねえよ」

昔と変わらず女の顔を見せる名前にホッと息を吐く爆豪。子どもが二時間前に眠ったのを確認している彼は愛する妻をそっとベッドに押し倒した。

「ん…っ…勝、己くん」
「このまましていいか」
「うん、いいよ」

年をとっても老いるどころか可愛さが増す妻に頭を抱えたくなることもしばしば。己の天井を知らない欲に呆れながらいざ服を脱がそうとしたそのとき、子どもの小さな声が聞こえた。

「っ」
「ママ…トイレ」
「お、自分で起きられたの?えらいね」

女の顔から急に母の顔になった名前。
この調子だともう夜の相手をしてくれないだろう。
最高潮に昂った欲の処理方法について思考を巡らせるとき、これはプロヒーローの爆豪勝己にとって一番情けない時間であった。



「ブッハッハッ!あの爆豪が嫁さんに相手にされてなくてヘコんでるとかマジ最高なんだけど!」
「うるせぇアホ面…その顔面爆破すんぞ」
「まあまあ、爆豪もしっかりパパやれよ」
「だまれクソ髪…それはやってるつもりだけどよ…足りねぇんだ、名前が」
「お前本当昔からベタ惚れだもんな」

名前を子どもに取られ、どうしよもない遣る瀬無さを感じていたとき雄英時代のクラスメイトから飲みの誘いがあった。どうせ明日は休みだし、もう名前は夜の相手をしてくれないであろうからと誘いに乗ることにした。そして溜まったフラストレーションを発散するように酒を煽った。

「子ども産んだら男と女じゃなくなんの?」
「子どもいるのお前だけなんだから俺らに聞いても答えなんか出ねぇよ?」
「相変わらずひとり身かよ、だっせえ」
「まさか爆豪が最初とは誰も思わなかったっつーの!しかもあんな美人な嫁さん…マジで羨ましい」
「ああ、名前はマジで可愛いんだよ…日に日に可愛くなるからなアイツ…抱きてえ」
「日に日に可愛くってそれ子どもに向けるセリフだろ、普通」
「そりゃあいつも可愛いけど、名前は別次元なんだよ。はあマジで抱きてえ」
「お前そればっかだな」
「毎日毎時間抱きてえ」
「それしか言わねえ、ポンコツかよ」

旧友と酒を酌み交わし、男同士でしか分かち合えない思いなどを吐露し、幾分すっきりしたところでスマートフォンの画面に愛する妻の名前が表示される。悪ぃ、外すわと振動を続けるそれを手に取り店の外へと出て行った爆豪の嬉しそうな表情に、切島と上鳴は揃って顔を見合わせて微笑んだ。

「あいつ俺たちの誰よりも仕事詰まってるみたいだったから心配してたけど…仲良くやってるじゃん」
「名前ちゃんから飲みに誘ってくれって連絡来たときはビックリしたけどなあ」
「いつも爆豪のこと考えてんだもんな〜。あいつばっかり好きみたいにいうけど俺からすればどっちもどっちだよ」
「羨ましいよなマジで」

電話を終えて二人が待つ個室へと戻って来た爆豪の表情はとても穏やかなものだ。

「あれ?座んの?帰らねえんだ」
「久々だから楽しんでこいとさ」
「本当…できた嫁さんだよな」
「ああ。お前らも早く相手見つけろ」
「くう〜嫌味だねえ」

それからしばらく楽しく酒を飲み、爆豪が自宅の玄関のドアを開けたのは日付が変わったあとだった。しかしリビングの明かりはついており、名前が起きて待っていた。

「おかえり勝己くん」
「ただいま。寝てなかったのか」
「うん、勝己くん明日休みだからゆっくり休んでもらいたいし…二人で過ごすのも悪くないかなって」
「二人って、あいつは?」
「ん〜ちょっとお母さんにワガママ言って預けちゃった。勝己くん普段忙しいからたまには労ってあげなさいって張り切って引き受けてくれたの」
「マジか」

恐らく明日の夕方、保育園の迎えの時間までは二人でゆっくり過ごせるということだ。

「良いのか、本当に」
「その代わり明日の夜はしっかりパパやってね」
「ああ、あいつにゃ寂しい思いさせてる」
「…あの子だけ?」
「名前にも…だな」
「ふふ、知ってたんならズブズブに甘やかして」
「その言葉後悔すんなよ」
「しないよ、私だって勝己くんのこと大好きなんだもん」
「はあ、やっべえ、マジで」
「やばい?」
「抱きてえ、ずっと前からだけど」
「ベッドで待ってる。お風呂入ってきて」
「ソッコーで上がるから寝んなよ」

早くしてね、と爆豪の頬にキスを落として寝室へ向かう名前に爆豪の天井しらずの欲は早くも主張を始めている。愛する妻と朝まで、いや昼まで裸で抱き合うことも許されるというのはなんと贅沢なことなのだろうかと、ベッドで待つ名前に思いを馳せ、素早くシャワーを浴びた。


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