大切な君へ

結論から言おう、お前さんは労咳だ。

やっぱりあの有名な死病ですか…

松本先生からの言葉に、やっぱりか、と思った。だから驚きはしなかった。これから僕はきっと療養生活を強いられる。近藤さんを守ることも、新選組の一員として生きることも許されないのかな…。

死ぬのは怖くない、だけどこんな死に方はあんまりじゃないか。

「総、司…」
「名前?どうしたの?」
「どうしたのって…!こんなところに居ないで早く部屋に戻ろう?体に障る、」
「はは…やだな、これくらいどうってことないよ」
「お願いだからそんなこと言わずに、ね?」
「全く、土方さんみたいだ」

死ぬのは怖くない、だけど名前と離れるのは嫌だ。

「ねー、名前」
「どうしたの?」
「僕は死ぬのかな」
「…馬鹿なこと言わないでよ」
「名前は僕が死ぬのは嫌?」
「当たり前でしょう?自分の命が終わるよりも怖い…」

名前はそう言って、僕の前に膝立ちになって僕の頭を抱きかかえるようにして、僕をそっと…だけど、力強く抱きしめた。

「よっ、と」
「きゃ!」

胡坐をかいた膝の上に乗せると小さく悲鳴を上げて顔を赤らめる名前がどうしようもなく愛おしい。この子を残して死ぬなんて…僕には出来そうもない。

ちゅ、ちゅ…と短く啄むような口づけを幾度となく交わした。

「ん…っ…総、司…」
「はは、色っぽい」

僕の病気が進めば、こうやって同じ部屋で同じ空気を吸うことも、口づけを交わすことも許されなくなるだろうね。ははは…僕、耐えられるかな。君に触れることが出来ないなんて。

「我慢する必要なんてないじゃない。置いて逝かれるくらいなら私も一緒に命を終わらせます」
「物騒なこと言うんだね、君」

でも、君がそう言ってくれて僕の心は軽くなった。

「総司ほどじゃないでしょ?」
「確かに。君がそう言ってくれたってことは僕は自重しなくてもいいってこと?」
「ふふ、どうでしょうね」

口づけも交わりも、僕は我慢なんてしないよ?…死ぬまで、ね。

(どんなに愛し、愛されても決して一緒に逝けない。そんなことわかっている)


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