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一目惚れ

「名前ちゃーん」
「あ、沖田さん!今日も暑いですね」
「本当、嫌になっちゃう。」
「直射日光は体に良くないですよ?陽の当らない涼しいところでお休みになってってあれ程言ったのに」
「ずっと寝ておくのは暇だからこうやって出てきたんだよ。君が毎日顔を出してくれるなら僕だって言うこと聞くのに」

名前ちゃんは町医者の娘で、お父上の手伝いをしている。笑顔が愛らしい孝行娘だ。

…数週間前から嫌な咳が出るようになって、勘の良い土方さんに気づかれる前にこっそり訪れた医者がここだった。正直、一目惚れだったと思う。女の子相手に何を話して良いかわからなくなったのは後にも先にもあれが初めてだ。

嫌な予感はしていた、きっとあの不治の病だろうと。だから病名を告げられても大して驚きはしなかった。むしろ…ここに通う口実が出来たことに多少喜びすら感じたのだからおかしな話。
 
近藤さんの役に立ちたいという僕の想いが報われなくなること、みんなの役に立てなくなること、色んな不安があった。

家族ですらこの病気を発症すれば忌み嫌う時代だ。仲間とはいえ所詮他人の集まりである新選組のみんなにどんな風に思われるか、それが一番の恐怖だった。

だけど名前ちゃんは…他人である僕に、優しく、愛情を持って接してくれた。お互い惹かれあうのに時間はいらなかった。

彼女のお父上は医者だから愛娘が労咳の僕と接するのを嫌がるだろうと思ったけど、彼女は僕との付き合いを堂々と宣言して見せたのだから驚きだ。

「最近急に暑くなって、お腹を壊す人が多くて…父上のお手伝いも忙しくて。中々会いに行けなくてごめんなさい」
「ううん。僕こそわがまま言ってごめん。わかってはいても我慢できなくて。でも君の顔を見れて安心したよ。さぁ屯所に戻って休むとするかな、」
「沖田さん…今夜、いつもの河原でお会いできませんか…?」
「!…こんな可愛い子に逢引の誘いを受けて断るやつなんていないよ」
「そんな…でも嬉しいです。お待ちしてます」
「僕も楽しみにしてるよ」

帰り際、少しかがんで彼女のほほに口付けを落としてみた。とたんに朱色に染まった彼女のほほを見て、さらに愛しくなった。あぁ…今夜が楽しみだ。


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