「おかえり〜」
仕事が終わって帰ってくるとマンションのエントランスで座り込んでいる徹がいた。
「もう、こんなところで待たないでって何回言えばわかるの」
「名前さんに会いたかったんだから許してよ。ね?」
「はあ」
徹は高校時代の二つ下の後輩だ。私は高校卒業後そのまま就職をしたし、徹は大学に進学したからそのまま疎遠になるかと思ったけど何となく付き合いは続いていた。
一緒にエントランスの自動ドアをくぐってエレベーターに乗る。徹はさりげなく私の手を握る。
「名前さん」
「ん?」
「いつにも増して疲れてるね」
「うーん、いつも通り疲れてるかな」
「元気だしてよ。せっかく会いに来たんだし」
「ごめんごめん」
拗ねた顔をする徹。私自身徹に癒されていることは間違いないのだが、今日は金曜日だ。一週間分の疲れが溜まっているので仕方ない。
玄関のドアを開けて、お互いに靴を脱ぐ。まるで自分の家に帰って来たかの様に家主の私より先に部屋に入っていく徹の背中を呆然と見つめていた。いつの間にあんなに大きくなったんだろう。高校一年生の時はもう一回り小さかったんじゃないかな。もう立派な大人の男だ。
「名前さん?」
「あ…今行く」
私が部屋に入ると、これまた慣れた様子で冷蔵庫から麦茶を出して二人分コップに注ぐ徹。
「ビールもあるよ?」
「明日試合だからさ」
「そうだったっけ」
「名前さん、くる?」
「そうだね、久々に行こうかな。みんなにも会いたいし」
「えー、あんまり会わせたくないないなー」
「じゃあ行かない」
「うそうそ!俺の勇姿を見に来て!ね!お願い」
パチンとウインクをしてお願いポーズをする徹。可愛いな、もう。
「徹ー」
「なに?」
「私ね、徹のこと結構好きだよ」
「結構ってなに!?俺はめちゃくちゃ好きなのに!」
「はは、ごめん。私もすごく好き」
「よかった〜。明日の試合に支障が出るところだったよ」
「徹、明日の試合頑張ってね」
「名前さんが来てくれるんなら頑張れる」
「ん。私、徹がバレーしてる姿すごく好きだから」
「普段の俺は?」
「もちろん好きよ」
「俺も、名前さん大好き」
徹が私を抱きしめる。この長くて綺麗な指も、分厚い胸板も、お茶目な笑顔も、スラリと伸びた足も、全部全部好きだ。私は徹にとってのバレー以上の存在ではないかも知れないけど、それでも私はバレーボールを追いかける徹が好きだ。
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