「だからあの時俺言ったべ?」
「あれは確かに及川が悪かったな〜」
親友達は口ぐちに俺の悪口を言う。なんで俺は自分の部屋でこんなにも肩身の狭い思いをしなければならないのか。救いを求めるようにそっと隣のまっつんを見れば、彼は素知らぬ顔で焼酎を煽っていた。ちくしょう、めちゃくちゃ様になってるじゃん。
「大体今日俺の誕生日だよ!?わかってる!?」
「お前の誕生日は最初に祝ったじゃん。」
「お前の誕生日は集まるための理由の一つでしかねーしな」
「清々しいくらいヒドイね!?」
なんと、彼らは俺の誕生日を祝うために集まってくれたのではなく、ただ酒盛りをするために集まったらしい。なにそれヒドイ。いくら及川さんでも泣いちゃうよ知らないからねと一人ごちれば勝手にしろと相方から蔑んだ目で見られた。本気で泣くぞコラ。
−−ピンポーン
部屋に間抜けなチャイムが鳴り響く。誰?来客?ピザじゃね?ああピザか。まあ家主である俺はピザが注文されていたことなんて初耳だ。もう慣れたけど。
「ちょっと及川行ってきて」
「なんでだよ」
「お前の家だろ」
「ほら、金やるから」
三人は俺の手に100円ずつそっと置いてまた酒を煽った。だから、俺の誕生日なんだけど!?
−−行けばいいんでしょ!と玄関に向かい少しイライラしながら扉を開けた。
「は?」
「や、やっほー」
扉の先にいたのはピザ屋の店員でも宅配便のお兄さんでもなくて、
「ちょっと!!悪戯が過ぎるんじゃないのお前ら!!!」
「んだよ、一番嬉しいプレゼントだろうが喜べクソ川」
「わざわざ連絡取ってやったんだから感謝しろ」
「及川くん誕生日おめでとう。はい、ケーキ買ってきたよ」
−−−扉の先に居たのは、高校時代の先輩で、俺がずっと片想いしていた人だった。
「名前ちゃん来たことだし俺らは帰るわ」
「「は?」」
「あとは二人でごゆっくりー」
なんなんだあいつらは。数年ぶりに会った好きな人と誕生日に二人で過ごせと?高校生のガキじゃないんだから間違いが起こってもなにも言えないじゃないか。
「名前ちゃん何しに来たの」
「いや、なんか久々に松川くんから連絡があって及川くんの誕生日祝いするから来て欲しいって…特に断る理由もないし、」
「来てくれたのはすっげー嬉しいけど…この状況はよろしくない」
「え?」
「だって、ずっと好きだった先輩と自分の誕生日に自分の部屋で二人きりだよ?しかも俺たちもう高校生じゃないし。大人だし?据え膳かと思うじゃん」
「な…!や、でも…」
悪友達の背中を呆然と見送ったあと。ケーキの箱を抱いて呆然と立ち尽くしたままの名前ちゃんと俺は、閉まった玄関のドアを見つめたまま目を合わせずに会話を続けた。今顔なんて見たら本能の方が勝ちそうだから。いくら二十歳を過ぎて大人になったといえど男なんて高校生のガキと大差ない下半身に正直な猿同然なのだから。
「及川くん、引かないでね」
「なに」
「正直なこと言うと、」
「…なに」
俺たちは未だ無機質な玄関のドアを見つめたまま。
「及川くんになら、抱かれてもいいと思ってた」
「ばっかじゃねーの!?」
急な爆弾発言に、思わず名前ちゃんの方を向いてしまった。あ、顔見ちゃった、もうダメ。顔真っ赤にしちゃって可愛いなこんちくしょうめちゃめちゃにしてやんだから。
せっかくのケーキがダメになってしまっては勿体無いので、ケーキの箱を名前ちゃんの腕から奪って冷蔵庫にしまってから、改めて向き合った。
「本気?」
「…」
「俺全部都合よく解釈するから。今更止めろったって無理だから」
「…はい」
なんだかんだ良い誕生日を迎えられたことをあのしたり顔の三人に感謝しなければいけないことは癪だが、それは仕方ないことなのだろう。
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