「A組のマドンナ、今度は他校の男子に告白されたらしいよ」
「え?他校?この間はB組のサッカー部の人じゃなかった?」
「今まで何人に告白されたんだろうね」
「まあ…あの顔だからね〜羨ましい」
と不満気な顔で話しているのは同じ学年のクラスも名前も知らない女たちだ。『マドンナ』だなんて随分と古臭い言い方をするもんだなと思いながら、前方から歩いてくる噂のマドンナに視線を向ける。彼女は俺の存在に気付き、少しだけ口角を上げて笑う。名前は今日も可愛いなと思いながら、俺は素知らぬ顔で彼女の横を通り抜けた。
放課後、俺の部屋でふてくされているのは噂のA組のマドンナだ。校内で俺に知らん顔されるのが気にくわないらしい。
「そんなに私との関係が知られるの嫌?」
「そうじゃねェけど面倒だろ」
名前はとにかくモテるやつだ。
そんな名前と付き合ってるなんてことが知れたらクラスの奴らに囃し立てられるのは目に見えているし、そんな揶揄いの対応に追われるのは何より面倒だ。
……というのは建前だ。俺は単純に他の男どもが妄想の中でしか抱けない名前を独り占めしているという優越感が好きなのだ。清楚系みたいな顔をしているくせにキスもセックスも好きで最中はひどく乱れるなんてことをあいつらは知らない。俺だけの名前。
「本当は学校でもイチャイチャしたいのに」
「俺にしか見せないそんなふやけた顔を学校の連中に晒すのか?」
「ダメ?そんな私も私でしょ?」
「ダメだな。見せたくねェ」
「もう。……ねえ、今日…する?」
「いいけどしたいなら自分で脱げよ」
「はあい」
恥ずかしそうにしながらも俺を挑発するような目で見つめる名前。そんな名前を見ながら俺はこれからもこうして名前にすら秘密にして独りよがりの優越感に浸り続けるのだ。
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