静まり返った屯所に一人。
縁側で高すぎる空を眺めていると珍しいツーショットが見えた。
「おい名前、万事屋が話があるってよ」
土方さんがそう言うと、銀さんが少し難しい顔をして手を挙げた。
「俺は…話終わったから。じっくり時間使え。」
「あ…はい…」
背を向けて歩き出した銀さんを小走りで追いかける。銀さんが向かったのは私が借りていた部屋だ。
「銀さん……っ!!!」
「名前…」
ドアがしまったと同時に銀さんの広い胸にしがみついた。何も言わない優しさに涙が出る。
しばらく無言で抱き合ったあと、銀さんに促され部屋に上がった。荷物はほとんど片付けてしまったから妙にこざっぱりした部屋になってしまった。銀さんと幾度となく愛し合った部屋だというのに。
「銀さん、土方さんから聞いた?」
「ああ。あいつが…名前のこと置いていっても良いって」
「あの人…最後まで鬼になりきれ無いんだなぁ。私は最後まで真選組であり続けるって誓ったのに」
「お前ェも…行くんだな」
「本当は銀さんと離れたくない…っ、でも何が正しいのかわからないの」
胡座をかいて座っている銀さんと向かい合うようにして足にまたがると、銀さんは顔が見えないように私をきつく抱きしめた。
「俺だって離れたくねェ」
「銀さん……」
「でもどっちにいたって危ないことにはかわりねェんだ。だったら江戸を離れる分真選組に居た方が少しでも安全なんじゃねェかと思ってな。お前が帰ってくる時のために江戸を守るやつも必要だろ?」
銀さんが諭すように優しく耳元で囁く。どうしようもなく寂しいしツライ。でも私には剣を捨てることもできなかった。
「銀さん…お願いだから、最後に抱いて欲しい」
「ああ。お前がもう無理っつっても止めねェから覚悟しな。あとな、最後にするつもりなんか更々ねェかんな、」
「うん…っ!」
「少しの間だ。な?お前が俺のこと忘れねェようにたっぷり抱いてやるからよ」
−−−刻み込んで、貴方の全てを、
夜が明けるまで美しい銀色に抱かれ続けた。大丈夫、離れていても心はずっと共にあるから。
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