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限りあるときのなかで



何故か慌ただしくピリピリとした空気。
そして大勢の怪我をした隊士。

昨夜大捕物があったと知ったのは出勤してすぐのことだった。

たかだか食堂で料理を作るだけの存在の私には、彼らの仕事内容を知るには限界がある。真選組が警察組織である以上、機密事項というものは数多く存在し、一般人の私にはそれらを知る術も権利もない。

局長も副長も、ましてや各隊の隊長でさえも姿を見せないということはかなりの大事件であったのだろうと推測するが、私は歯痒くもただあの人の無事を願うことしかできなかった。

「なまえさん。副長の件聞いてますか?」と隊士から声をかけられたのは夜になってからだった。それは結局あれから一度も姿を見せない局長たちにやはり何かがおかしいと思い始めたときのことだ。

「なにも聞いていないんです。不在に関係があるんですか?」
「昨日の攘夷志士との争いのときにひどい怪我をして意識がなくて、今も昏睡状態なんです……」

はて……。彼は今なんと言っただろうか。
副長が今現在『意識がなく』『昏睡状態』である、と。つまり命の危険に晒されている、と。

普段から危険と隣り合わせなことは重々承知で覚悟もしている。しかしこんなことは今までになかった。いくら怪我をしようと、その生が危ぶまれることなど今までになかったのだ。

ひどく狼狽した。
パニック状態で働かない頭を必死に回転させなんとか病院と病室を確認できたものの、その日はすでに面会時間を過ぎており、副長の様子を見ることは叶わなかった。

そして翌朝。仕事の方は融通を聞かせてもらい入院先の病院に向かったが、容態が不安定であるため面会謝絶。家族でもなんでもない私は、いくら願おうと副長の姿をひと目見ることもできなかった。

それからまた数日。意識が戻ったので集中治療室から個室に移ったと聞き、私はこのときようやく副長の姿を見ることができたのだった。

「なんつう顔してんだよ」
「だって死んじゃうのかと思って……」

体の至る所に包帯が巻かれ腕にはたくさんの点滴が繋がっている。生々しい傷もたくさんあって、本当に命の危機だったのだなと思うと胸が押しつぶされそうで呼吸も忘れてしまいそうなほどに苦しかった。

そんな私を自分の体なんてそっちのけで心配する副長。私の心配なんてしている場合じゃないでしょうと言いたかったが、きっとこれは彼なりの贖罪なのだろうと思い素直に受け止めた。

「悪ィな。心配かけちまった」

バツが悪そうな顔をして視線をそらす副長の手を握って、数日間考えていたことを口にした。

「結婚してください」
「は?」

私と副長の関係が恋人同士であることは周知の事実だ。しかしこの関係は公的なものではなく、非常時になんの効力も持たないのだと今回のことで痛感した。

愛しい人が命の危機に晒されていても、私にはそれを直接知る術はない。家族であればもらえるはずの連絡も、ただの恋人である私にはこないのだ。

「屯所の誰か、それか私たちの関係を知っている人がいなければ、私は副長が入院していることさえ知ることができなかったんです。入院していることが分かっても面会すらできない。でも……家族になればきっと違う。そう思うんです」
「だからってお前そんな急に思いつきでするもんじゃねェよ」
「思いつきだと思うんですか…!」

ついに我慢していた涙がみっともなくボロボロと溢れていった。副長が死ぬかもしれないのにひと目会うことも叶わずどれだけ悲しかったか、つらかったか。生き地獄のようだったこの数日を過ごした私の思いを『急な思いつき』などと簡単に片付けられたくはなかった。

「悪い。泣くな。お前に泣かれると俺は……」
「もう、会えないかと本気で……」
「俺はずっと前から家族になりたいと思ってるよ」
「はい」
「俺の名字を貰ってほしい。家族になりてェ。築きてェ。ずっとそう思ってる」
「はい」
「思いつきなんて言って悪かったな。お前も覚悟を決めてくれたんだよな」
「死ぬときは一緒って言ったじゃないですか……絶対に置いて行かないでください……」
「あァ。俺なんかには勿体ないと思うんだがな。だがしかし、他の安全な場所で幸せになんてなって欲しくねェんだ。わがままだろ」
「ううん。私が副長と一緒にいたいんです」
「ありがとう。ありがとな、なまえ」

病院という場所で、傷だらけの状態で。
およそロマンチックというにはほど遠いシチュエーションではあるが、私たちらしいといえばそうなのかもしれない。つまるところ、どんな場所であれ愛を誓い合うために必要なのはお互いの心のみだということ。

「なまえ、キスしてくれ」
「はい」
「愛してるよ。俺はお前に惚れてる。心から」
「私もです」

死ぬときは一緒という彼との約束が果たされるのは数年後かもしれないし数十年後かもしれない。どちらにせよ時間とは限りあるものだ。その限りある時間をいかに意味のあるものにするかは自分たち次第。病めるときも健やかなるときも、二人手を取り合って生きていこうと誓った。



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