ながれぼし



三時のおやつに「かき氷が食べたい」とねだりに来ていた沖田くんが、いつのまにか焼き芋を欲するようになっていた。

季節の移ろいを肌で感じる今日この頃。
朝晩の冷え込みが一段と厳しくなり、肺に取り込む空気がツンと冷たく感じる時間も増えてきた。

「うー、寒ィ…。姐さん焼き芋まだ?」
「お芋が安くなってなかったからまだよ」
「んなケチくせェこと言うんじゃねェやい。どうせ税金からまかなわれてるんだろ?使い込めばいいんでさァ」
「一応上限はあるの。その中でやりくりしてるんだから」

なんてそんなものは言い訳で、本当のところはというと、総悟を甘やかし過ぎるなと鬼の副長にチクリと言われたばかりなのでちょっとした抵抗だ。とはいえこの弟のように可愛い沖田くんにほだされ、ワガママを聞いてしまうまであと数日もかからないのだろうけれど。

「晩飯は?シチュー?」
「シチューは昨日作ったでしょ。今日は豚汁」
「まあ豚汁でもいいか」

焼き芋は却下しながらも、この子の姿が見えてからすぐに温かいお茶を用意している私は大概甘いなと思う。

「あ、そうだ。今日の夜なんとか流星群ってのが見えるらしいですぜ」
「流星群?」
「つってもかなり遅い時間みたいですがねィ」
「沖田くんは寝るの早いもんね」
「成長期なんで」
「へーそれなら仕方ない」

流星群か。流れ星なんてもう何年見ていないだろうか。そもそも星を眺めるなんて滅多にしない。しかしせっかくの機会だし、たまには夜空を見上げながら帰るのも良いだろう。

仕事が終わり、いつもの帰り道を時折空を見上げながら歩く。まだまだピークの時間ではないが、ぽつりぽつりと流れる星が見える。そんな星に年甲斐もなく内心ではかなり興奮していた。

「ボーッと歩いてっと襲われるぞ」
「うわ、ビックリした。偶然ですね…飲み屋帰りですか?」
「まァな」

星がよく見える河川敷でばったりと出くわした副長は、少しだけお酒の匂いをさせながら身震いをして腕を擦り合わせていた。

「なんもねェところで空見上げてどうした。なんか悩みごとでもあんのか?」
「いえ、副長も見てくださいよ」
「なにを」
「星ですよ、星」
「……あ」
「流れ星なんて滅多に見られないでしょ」

今日流星群が見られるって沖田くんが教えてくれたんですよ、と再び空を見上げる。黙ってとなりに立つ副長はしばらく私に付き合ってくれるらしい。

「願い事とかしてみます?」
「そんな柄じゃねェよ」
「じゃあ私が代わりにしてあげますよ、副長がマヨネーズをやめられますようにって」
「いくらお前に言われてもそれはやめねェ」
「それは残念」

ぷかぷかと煙草をふかしながら空を見上げる副長の横顔は、凛としていて素敵だ。冬の冷たい空気がより一層副長の凛々しさを引き立てているような気がする。

「副長が煙草をやめられますように」
「それはまァ…電子タバコに切り替えるくらいならしてやらんでもない」
「本当に?それはすごい譲歩ですね」
「いつかやめる必要がある時がくるかもしれねェし」
「ふーん」

なにか含ませたような言い方をする副長とそれを受け流す私。変わりたいような変わりたくないような。結局は今が楽しいから先のことは考えづらいとただそれだけのことなのだけれど。

「煙草やめるの、今すぐじゃなくていいんですけど、今だけやめてもらえます?」
「なんでだよ」
「せっかく綺麗な星空を眺めてるのに、私たちと空の間を遮る煙があると残念でしょ?」
「結構ロマンチックなこと言うんだな」

副長の口元から煙草を奪い、そのままキスをするとなんとも言えない味がした。

「やっぱり煙草やめましょうよ」
「なんで」
「だって苦い」
「自分からしといてそりゃねェだろ」

……電子タバコも苦いのだろうか。

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