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タカラモノ



家を出た直後に「あらなまえさん、今から出勤ですか?」と近所に住むお妙ちゃんに声をかけられたことに始まり、今日はやたらと知人に会う日だった。

屯所に着くまでに見回り途中の山崎さんに会ったし、買い出しに行く途中、散歩中だという神楽ちゃんと定春にも会った。買い出しの帰り、少しだけ休憩をしようと団子屋に寄ると、軒先の長椅子に腰掛け団子を貪り食べる銀時がいた。なんだろうな、かぶき町ってこんなに狭かったっけ。

「こんなとこで会うなんて奇遇だな」
「今日はやたら知り合いに会うんだよね、変な感じ」
「ここで会ったのもなんかの縁だろ。お前も座れば」
「ちょっとだけね」

と、銀時の隣に腰を下ろす。いつもご贔屓にどうもと店主にお茶と団子を渡され、それを受け取るとすぐに土産用はどうしますと聞かれ、いくつか包んでくれるようにお願いした。商売上手な人だ。

「あいつらに土産?」
「主に沖田くんに」
「餌付け?」
「そんなんじゃないよ、弟みたいで可愛いの」
「あのドS王子が?まさか〜」
「私にはわりと素直よ?」
「へェ、それはそれは土方くんは楽しくねェだろうよ」
「団子ひとつであの人に妬いてもらえるなら安いもんじゃない?」
「惚気は結構ですぅ」

とまあこんな具合に十分ほどくだらない話を楽しんだ私は、お土産用に包んでもらった団子を持って屯所へと戻った。食堂で買い物袋をパートのおばちゃんに渡し、みんなでおやつにしてくださいとお茶を入れると、どこからか団子のにおいを嗅ぎつけた寝ぼけ眼の沖田くんがやってきた。

「姐さん…俺も団子食べたい」
「多めに買ってきたからどうぞ?」
「ん…いただきやす」
「またサボってたのね。早くシャキッとしないと、そんな顔見られたら副長からの雷が落ちるよ」
「姐さんがチクらなきゃバレないから大丈夫でさァ」

団子片手にしばらくボーッとしていた沖田くんは、ふと何かに気が付いたように首を傾げ、姐さん、と私を呼んだ。

「どうしたの?お茶のおかわり?」
「いや、そうじゃなくて。そこっていつも…」

そこ、と彼が指をさしたのは私の帯だ。
この帯がどうかしたのだろうか。

「帯留、つけてやせんでしたかィ?」

沖田くんの言葉にハッとして自分の帯を見ると、確かにいつも付けているはずの帯留がなかった。大切なもの、副長が私にくれた、最初のプレゼント……。

「さ、探してくる…!」
「まず土方さんに相談しなせェ、あの人なら探さなくてもまた新しいのを、」
「それじゃだめなの、だから…っ」

気付いた時には駆け出していた。まだ私たちの関係が偽物だった頃、きっと偽物から本物に変わりかけていた頃にもらった、たくさんの思い出が詰まった大切なものだから。

運が良いのか悪いのか、今日はよく知人に会った。出会った順番に彼らを訪ね、その時私が帯留をつけていたかどうかを尋ねてまわった。失くしたのはきっと神楽ちゃんに出会ったあと、銀時に出会う前だ。

買い出しに行ったスーパーで落し物がないか尋ねてみたが見つからなかった。ならばと神楽ちゃんと定春が散歩をしていた河川敷を隈なく探す。あたりは既に暗くなり始めていて、身ひとつで屯所を飛び出したことを後悔するほど気温も下がっていた。

見つからない、どうしよう、どうしよう…。鼻の奥がツンと疼いて、涙が溢れそうになった時、川の底で何かがきらりと光ったように見えた。まさかと思い草履を脱ぎ捨て川に飛び込む。水の冷たさに手も足もすぐに悴んだが可能性があるのならば諦めたくはない。

光ったように見えたのは気のせいだったのだろうか、川底の石をめくってもめくっても帯留は見つからず、ついには体の力が抜けて冷たい水の中に座り込んでしまった。たかが帯留、そう言われてしまうかもしれないが、私には……

「なまえ!馬鹿野郎!!何してやがる!!」
「副長…」

沖田くんから話を聞いたのか、副長は息を切らしながら私に駆け寄ってくれた。差し出された手がひどく遠いのは、彼から貰った大切なものを失くした後ろめたさのせいだろう。

「早くしろ!風邪引きてェのか!」
「副長…っ」

自身が濡れることは気にせずにザブザブと川に入ってきた副長は、無理矢理私を引っ張り上げそのまま冷えた体を抱きしめてくれた。

「馬鹿女、真冬の川に座り込むなんて、死にてェのか」
「ごめんなさい」
「とりあえず、お前の家に行くぞ」

車に乗せられそのまま私の家に連れて行かれた。風呂に入るように促され、ボーッとシャワーを浴びる。戸の向こうで副長が声をかけてくれたが答える気になれず、シャワーとともに流れゆく涙が止まるのを待った。

「…やっと上がったか」

濡れてしまった隊服を脱ぎ、私の家に置いたままだった着物に袖を通した副長が、ここに座れと自分の隣をポンポンとたたく。大人しく座った私の腕を思い切り引く副長。勢いのまま胸に飛び込むと、頭を抱え込まれ、優しく背中を撫でられた。せっかく落ち着いたのにまた涙が流れてしまう。

「総悟から聞いた。なんだってあんなもの…あんなになってまで探すもんでもねェだろうが。……と言いてェところだが、俺が初めてお前に渡したもんを、お前がそこまで大切にしてくれてるなんて思いもしなかったからな、ちょっと嬉しかった」

当然叱られると思っていた。くだらないと呆れたように笑われると思っていた。それなのにこの人は、私の考えを汲んで、そう言ってくれたのだ。思わず弾かれたように顔を上げると、副長は少し照れたような笑みを浮かべていた。

「ありがとな、大事にしてくれて」
「ごめんなさい、大切なものなのに…失くしてごめんなさい」
「良いんだよ、俺にとってはお前がなにより大切なんだ。思い出のために死なれちゃかなわねェ」

どこまでも優しく、いつも私の心を見透かして、欲しい言葉を全部くれるこの人に、愛以外なにも渡せないのが悔しい。

「また何か身につけるもん買いに行こうな」
「…はい」
「失くさないように指輪にすっか」
「…はい?」
「身を固めるのにいい頃合いかと思ってよ」
「それとこれとは話が別です…!」
「嫌なのか」
「そうじゃなくて、もう!」
「はは、やっといつものお前だ」

してやられた、と思った時には既に遅く、顔を真っ赤にして慌てふためく私を見て、副長はげらげらと笑っていた。

「ひどいです、そんな冗談」
「指輪の件は冗談じゃねェよ。お前は俺のもんだって一目でわかる証拠が欲しい」
「そんなものなくたって、私はあなたのものです」
「そうだな、……そうだよな」

いつになく弱気な顔を見せる副長。違和感を覚えたのはほんの一瞬のことで、次の瞬間にはいつもの勝ち気な顔をしていた。

「副長、屯所に戻りますか?」
「いや、特に急ぎの仕事はねェから泊まってくよ」
「仕事の途中で抜け出してすみませんでした」
「良いって、お前はもうちょい楽な仕事の仕方を覚えろ」
「…はい」

しばらくはこれで我慢しろよと胸元に吸い付かれ、私の体にはくっきりはっきり、この人のものだという証拠が刻み付けられたのだった。

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