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- ナノ -

6

私が父の店を離れたのには理由がある。その理由とは、かつて好きになった人の隣を夢に見てしまいそうになるからだ。未だ戦いの中に身を置くあの人の隣を−−−。

(懐かしい夢…………)





「おい、帰ったぞ」
「あんた…!無事なのかい!?」

攘夷戦争後期。長らく家を空けていた父が帰ってきた。ただの民間の商人である父が戦争に参加したのは、やれ尊皇攘夷とかやれ将軍だ天人だとかそういうのは関係なく、ただ自分が育ったこの地球が好きだったから、それだけなんだと思う。母に無事を問われた父は俺は大丈夫だと笑顔を見せた。そして続いて俺は大丈夫だがこいつの手当てを頼むと言った。この時父が連れてきたのがあの人だった。

「俺はこいつが率いてる義勇軍にいるんだ。若いが人を惹きつける才は天下一品よ。未来を担う若者がこんな親父を庇って怪我をしちまったんだ。近くにいたんでこっちの方が早ェだろうと思ってよ」
「庇ったわけじゃねェって言ってんだろクソジジイ。流れ弾に当たっただけだ。」
「へいへい、どっちでもいいから手当を受けてくんな、総督様よ」

父はおかしそうに笑って総督様とやらを家にあげた。母は困惑しながらも彼の腕に丁寧に包帯を巻いた。年は私とさほど変わりないように見えた。

「なに見てんだ」
「なんで戦争なんかしてるの?」
「お前にゃわからねェ男の事情だ」
「ふーん」
「お前、名は何て言うんだ」
「ナマエ」
「そうか。俺の名は−−−」






思い出してはいけない。きっともう二度と会えないのだから。巷を賑わす攘夷志士である彼“高杉晋助”と真選組に身を置く私とでは住む世界が違うのだ。自ら望んで対極にいる私を晋助はどう思うのだろうか。


あれから私と晋助は幾度となく顔をあわせることとなった。それは大抵父が彼を家に連れて来た時だったが、それ以外にも偶然が重なったり、私が父に頼まれて晋助の仲間の手当をする時だったり、色々な機会があった。

私は晋助が苦手だった。
何でも見透かしてしまうような澄んだ瞳が、何人もの人や天人を斬ってきたその手が、何もかもが苦手だった。

「お、若い姉ちゃんがいるたァ珍しい。お前誰の女?」
「そんなんじゃありません。父に頼まれて来ただけですから」
「おい銀時、そういうこった。俺はあの親父からコイツを預かってんだ。手ェ出したらタダじゃすまねェぞ」
「んだよ、高杉の女かよ」
「違いますこの天パ男」
「んだとゴルァ!!!」

苦手だったけど、晋助はいつもこっそり私を守ってくれていた。

いつだったか、彼らの昔馴染みが戦死して、晋助がひどく落ち込んでいる様に見えた時があった。命を賭けてまで戦う彼らには、女の私にはわからない事情とやらがあるらしいので、私は何も聞かなかったし言わなかった。ただ晋助の側にいた。

「…なァ」
「なんですか」
「お前はこの戦争の結末をどう見る」
「女の私にはわかりませんよ。でもどっちが勝ってもどっちが負けても新しい時代が始まるだけ。私達はその新しい時代に順応するしかない。それだけ」
「女のクセに肝っ玉が据わってやがらァ」
「珍しい、高杉さんに褒められた」
「褒めてねェよ。女はか弱くて守られてるくらいが丁度いいんだ。あと晋助でいい、今更他人行儀はやめろ」
「ふふ、じゃあか弱い女の子のフリするから晋助が守ってね」
「絶対ェ嫌だ」

この日から、少しだけ距離が縮まった。私は彼を晋助と呼び、彼は私をナマエと呼ぶようになった。

「お団子作ってきたけど食べる?」
「お!美味そう!一つもらうぜ」
「おい銀時、そいつァ俺のだ。誰の許可貰って食ってんだ?あァ?吐けよコラ。団子と共に五臓六腑全て吐き出して死ねよクソ天パ」
「団子ひとつでそこまで言う!?お前どんだけナマエのこと好きなんだよ…独占欲やべェなオイ」
「そんなんじゃねェよこいつは!」
「じゃあ何なの?」
「あ、それ私も聞きたい」
「悪ノリしてんじゃねェよ殺すぞ」

物騒な言葉を吐きながらも少しだけ照れた様な顔を見せた晋助が可愛くて、銀時と一緒にからかったりもした。あの頃は本当に楽しくて、毎日が輝いて見えていた。

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