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27

「一緒に来てもらおう。真選組内で起こっていることに検討はついているのであろう?」

刀を突き付けられたままそう言われ、頷くしかなかった。この人が晋助の仲間なら今すぐどうこうされることはないだろう。私も随分と肝が据わったものだ。

手首を縛られ行き先もわからぬままバイクに乗せられた。

「ちょっと、手首縛られてたらバランス取れなくて危ないんですけど」
「聞こえないでござる」
「聞こえてるじゃない」
「…」
「ちょっと、ねえ、逃げないからこの縄外してよ」
「外すわけないでござろう?体ごとバイクに括り付けるか」
「…このままでいいです」

手首を縛られたまま、なんとか河上さんの背中につかまりバランスを取っていると、段々と道が悪くなって来た。

「ちょっとこの砂利道厳しいです落ちそうです」
「もう少し黙っていてくれぬか。舌を噛むでござるよ」

どうやらこのバイクは、前を走る電車を追っているらしい。そういえば局長と沖田くんたちが電車で武州に向かうと言っていたような…

「まさか!あの電車に局長たちがいるんですか!?」
「ん?あァ、あの電車に乗っているのは伊東の息のかかった者ばかり。近藤も沖田も長くはないだろう」
「最低…!」

いつの間にかバイクの後ろには夥しい数の賊の群れ。これがみんなあの局長を裏切った隊士かと思うと目眩がした。

「あーあー、やまとの諸君、我らが局長近藤勲は 無事救出した!勝機は我らの手にあり!局長の顔に泥を塗り、受けた恩を仇で返す不逞な輩…あえて言おう カスであると!今こそ奴らを月に代わってお仕置きするのだ!」

しばらく電車と並走するカタチで走っているとボロボロになったパトカーに万事屋のみんなと副長が乗っているのが見えた。味方を鼓舞する為に、精一杯虚勢を張っている副長がいる。生きてる、その事実だけで胸がいっぱいになる。

副長の生存を確認し、安堵の溜息をついたところで伊東が電車から顔を覗かせ、あろうことかバイクに飛び乗って来た。

「ちょっと!狭いんですけど!」
「威勢だけは一丁前だな君は。君を連れていれば連中も簡単には手出し出来るまい」
「ふざけないで。あの人の足手纏いになるくらいならここで舌を噛んで死にます!!」
「だそうだ、土方くん。このままでは君の大事な人は自殺する羽目になりそうだな」
「させるかよ…ナマエ、お前の覚悟はきちんと受け取ったぜ」

先程、呪われた体のまま一生懸命虚勢を張っていた副長とは違う、本物の副長が垣間見えた。副長の目線の先には局長と沖田くんの姿も見える。さすがに無傷というわけにはいかないようだが、二人とも無事だった。

「土方さん、姐さん死なせたら俺ァマジであんたを殺しやすぜィ」
「死なすかよ」

もう私の命なんてどうでもいい。副長が副長のまま、無事でいてくれればそれでいい。心の底からそう思えた。

「さぁ、君をどうしようか」
「どうにでもすればいいでしょう?あの人達は私がどうなろうと崩れない、あの人達の繋がりはそんなやわなものじゃない」
「繋がり、だと?そんなものあってなんになる!」
「!」

突然激昂した伊東に手を挙げられ、私はそのままバランスを崩しバイクから転げ落ちた。手首を縛られたままで上手く受け身を取ることも出来ず地面に叩きつけられた。

「お主、あの女に危害を加えたとなると晋助が黙っておらぬぞ」
「…どっちみち、もうただでは済むまい」

私がバイクから落ちたのをきっかけに、銀時と万斉さん、副長と伊東様が対峙する。私は必死に痛みをこらえ、意識を失わないようにしているだけで精一杯だった。

「おい!ナマエ!大丈夫か!?」
「銀時…あんたこそ、」

河上さんと死闘を繰り広げていた銀時。身体中血まみれで、私より大怪我をしているに違いないのに血相を変え駆け寄って来てくれた。

「副長は…?」
「死んじゃいねェから安心しな」
「ありがとう」
「だから俺ァお前に礼を言われることなんて何も…」
「副長を守ってくれて…ありがとう…っ」

銀時は私の腕の縄を解きながらそう言ったが、私には感謝の言葉しか浮かばなかった。副長を、真選組を、私の居場所を守ってくれてありがとう…と。

「泣くな、立てるか?」
「うん」

銀時はそっと私を抱きしめ頭を撫でてくれた。副長とはまた違う、安心感を与えてくれる広い胸だ。

「ここはまだ危険だ。少し安全なとこに移動するぞ」

全身打撲でおまけに足首を捻った私は歩くことが叶わず、銀時に抱きかかえられたままの移動となった。

「ごめんね、いつも」
「だから、謝る必要も礼を言う必要もねェんだって。俺らはそんな遠慮し合う仲じゃねェだろ?それともそう思ってるのは俺だけか?」
「ううん、私もだよ」
「だったらちったァ黙ってな。あとな、いい加減高杉の野郎にはムカついてんだ。次会ったら顔面に一発じゃすまねェぞマジで」
「私の分も合わせて二発宜しく」

降ろされたのは誰も乗っていてないパトカーだった。終わったら迎えに来るからそこで寝とけもう何も見るな、と事切れた隊士達の亡骸を眺めながらそう言って銀時はまた私の頭を撫でて去っていった。

それからどのくらい時間が経っただろうか、日が昇り始めたころ、人の気配に顔を上げると副長がいた。

「副長…っ」
「今、帰った」

私が縋るように両手を伸ばすと、副長はそのままキツく抱きしめてくれた。傷だらけでボロボロなのに、私なんかの心配をしてくれる副長。副長が生きていることを確かめたくて、血まみれの頬に手を添えると眩しそうに目を細め、そのまま私の手に副長の手が重ねられた。

「悪ィ」
「なにが、ですか」
「またお前を危険な目に遭わせちまった」
「副長のせいじゃないですよ。半分は自業自得かな」
「どういうことだ?」
「いずれ…わかると思うから、その時は」

私がそこまで言うと副長は口を噤み、無理矢理話題を変えた。

「…妖刀だなんて、信じられるか?」
「普通だったらそんな馬鹿げた話信じません。でも…あんな副長を目の当たりにしちゃったら信じるしかないですよ」
「くだらねェよ、全く」
「腑抜けてた間のこと覚えてるんですか?」
「断片的にな」

さてそろそろ行くか、と副長は私の腕を自らの肩に回させるようにして歩き出した。足を捻ったとはいえ、どう考えても私より副長の方が重傷である。さすがに申し訳なさが上回り遠慮すると気にするなの額を軽く叩かれた。…ここは素直にお言葉に甘えるとしよう。

みんなが集まっている場所に辿り着くまでに、たくさんの亡骸を目にした。伊東一派として真選組にやってきた人もいれば、元々真選組にいた隊士も。彼らが食堂で私のご飯を食べてくれることはもうない、そう考えると寂しくて…ツーっと涙が流れた。

人の死というものは、簡単に訪れる。ミツバさんだけじゃなく、真選組に身を置く限りもっとたくさんの死を目の当たりにすることになるだろう。いつかきっと大切な人達にもその時は訪れる。私が思っているよりも遥かに簡単に。その時が来たときに後悔しないためにも、私は自分にできることを全うしよう、そう思った。

屯所に戻ると副長はすぐさま数日間の休みを申請し、しばらくの間姿を消した。妖刀の呪いを解くためにあらゆる神社仏閣を巡っているらしく、何かあるたびに連絡はあるが…芳しい結果報告はなかった。

「姐さん」
「もう怪我はいいの?」
「ん?あァ、あんたの飯食ってりゃ治るだろィ。それよりあの人は?」
「まだ呪いが解けないらしいよ」
「けったいなもんに取り憑かれやがって。いっそのこと副長の座を俺にあけ渡せばいいんでさァ」
「副長は副長で苦労してるみたいよ、沖田くんにできる?」
「近藤さんを守れたらそれだけで良いんでィ」

今回の件で昔馴染みの彼らの絆はより一層深まったようだ。怪我を負いながらも自らの力で局長を守り抜いたという結果は、彼にとっての自信になっているに違いない。

「沖田くん、あんみつ食べる?」
「お、良いですねィ」
「頑張ったご褒美」
「姐さん愛してるぜィ。…美味ェ〜やっぱ俺のとこに嫁に来た方が良いんじゃねェの?」
「ふふ、どうなんでしょうね」
「ま、来るわけねェか。あんたあの人にぞっこんだしねィ」
「そうなの?」
「違うんですかィ?」
「さぁね〜」
「これだから大人は…」

副長はいつ戻って来るだろうか。戻って来たら彼の好きなものを作ろう。沖田くんのように美味しいと素直に言ってくれるだろうか。

「またあの人のこと考えてるだろィ」
「え」
「わかりやすいんでさァ、あんたもあの人も」

副長が副長として真選組に戻って来て、日常が戻って来るまでには暫く時間がかかるかもしれないが、私は私のまま変わらずにここにいられたら、と願う。彼らのそばに…いつまで居られるのだろうか。

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