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- ナノ -

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「姐さんそんなに飲みっぱなしで大丈夫ですかィ」
「見るに堪えないこの絵面…もう何も考えたくない…」
「ありゃりゃ。肝心な時に旦那様は何やってるんですかねィ」

局長とゴリラ王女の結婚式の日がやってきた。正直こんな動物園みたいな披露宴会場から早く出たい。もう帰りたい。完全アウェイだしゴリラしかいないし食べ物はバナナだけ…?ありえない…。持って帰って後でバナナケーキか何か作ろうと、円卓にこんもりと盛られたバナナをこっそり袋にしまった。

お決まりの挨拶やらなにやら、定番の手順で披露宴は進んでいくが、なにせ周りはゴリラばかりだ。挨拶も基本的になにを言っているかわからないし、一緒に来ている真選組のみんなはお妙ちゃんが来ることを信じてソワソワしていて誰も私に構ってくれない。柳生家で怪我をして包帯まみれのミイラ男のようになってしまった旦那様は披露宴会場には似つかわしくないと入ってくる気はないようだ。松平長官様が出席されるからという理由で、偽装の夫婦関係を疑われないように私がこの披露宴に出席しなければならないということは理解しているのだが、連れてきたくせに一人にするとはいい度胸だ。

そんなこんなで酒ばかりに手が伸びて結局何が何だかよくわからない。あれ?今日ってゴリラ同士の結婚式だったっけ?

…局長ってゴリラだったっけ?

「おいナマエちゃん?飲みすぎじゃね?大丈夫かお前」
「…なに?天パが文句あんのか?ちょっと新八くん、あとでバナナスイーツ作るからたくさん持って帰ってね、めちゃめちゃタッパー持ってるの知ってんだから」
「…ナマエさん、酔ってますね」
「酔ってない酔ってない、私をこんなゴリラの巣窟に置いてけぼりにした副長のことなんて怒ってない」
「こりゃキレてるねィ。ところでお前のところの姉ちゃんまだかィ」
「さ、さぁ…どうですかね」
「あーもーマジで帰りたい…」

今度は何やら夫婦揃っての共同作業ということで、ケーキ入刀ならぬバナナ入刀が行われるらしい。言うなればアレだ。ゴリラ同士の営みを公衆の面前で行うらしい。もう無理…こんなの見たくない…そうだ、意識が飛ぶまで酔っ払えばこんな光景見なくて済むんだ…!すでにベロベロではあるが、私は最終手段とばかりにそこら中の酒をあおった。

−バタン−

「あ、落ちた」
「マジか。大丈夫かコイツ。ロビーのソファーに寝かせてくっか」
「旦那ァ、逃げる気ですねィ」
「ついでに便所に行くだけだよ」

銀時に抱えられたことにも気づかないまま、私は披露宴会場をあとにした。

「よォ土方くん。お宅の奥さん旦那がいねェって拗ねてたぜ」
「あ?ナマエ?うわ…酒臭ェ」
「こんな酒臭ェ女返品するぜ、ほらよ。じゃあな、便所行ってくらァ」
「危ねェな…!おい、ナマエ大丈夫か?」
「んう…副長?こんなところで何やってるんですか…あんなところに奥さん一人にしてふざけんじゃねーっすよ」
「悪ィ悪ィ。もうすぐ終わっから寝てな」
「はい…」

ミイラ男のような副長に頭を撫でられ、目を閉じた。次に意識が浮上したのは、温かい背中に揺られている時だった。

「あれ…?ゴリラは?」
「やっと起きたか。披露宴は中止だ。ゴリラの親分みたいな女が乗り込んで来て式をめちゃめちゃにしていきやがった」
「お妙ちゃん来てくれんだ…」
「ああ、借りは返すタイプらしい」
「良かったですね、副長」

もう酒はだいぶ抜けていたが、私は酔ったふりをしたまま副長の背中に身を預けた。

「ナマエ…気分悪くねェか」
「うん、大丈夫です。鬼の副長におぶってもらうなんて最高に良い気分」
「まだ酔ってやがるな」
「どうでしょうね」

副長にギュっとしがみついてみると、やっぱりタバコのにおいがした。私を安心させてくれるにおいだ。

「このまま家に帰るか」
「このままじゃなかったら?」
「どっか飯食いに行くか」
「副長と二人で?久々ですね」
「たまには嫁さん孝行しねェとな」

こうやって私のことを気にかけてくれて、そばに居てくれるだけで十分ですよ、と感謝の気持ちとイタズラの意味を込めて頬を寄せると副長の頬が赤く染まった。

「お前急にそういうことするなっつの」
「慣れてるくせに」
「俺を何だと思ってるんだよ。んな暇あるか」
「浮気とかされたら泣いちゃいますからね」
「俺ァ一途な男だよ」


そうですね、よく知ってます。
なんて言えずに曖昧に返事をした。
空が切なく夜に染まっていた。

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