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あれから三日。銀さんは新八くんに付き添われ、何事もなかったかのように退院してきた。しかし未だ私のことは思い出せていないらしく、同じ家で過ごすのには少しばかり気まずかった。それでもお医者さんは「普段と変わらない生活の方が記憶を戻すためには良いかもしれない」と仰ったので、私たちは夫婦として過ごすことにした。

「銀さん、お帰りなさい」

「あ、ああただいま」

「早速よそよそしいアル」

神楽ちゃんの言う通り、銀さんは私に対してよそよそしい。少しだけ寂しさを感じながらも、出会った頃もこんな感じだったと思えば自然と笑みがこぼれた。

四人分のお茶とお菓子を用意してテーブルに並べる。神楽ちゃんの横に新八くん、銀さんの横に私。これがここの定番スタイルだ。私が何の躊躇いもなく横に腰掛けたことによって銀さんは緊張したようにビクッと体を揺らしたが、そんなこといちいち気にしていられない。私がいつも通りに出来なくてどうする。

「銀さん、無理に思い出そうとしなくていいですからね。でも私とあなたが夫婦ってことは事実だから、念頭に置いていてください」

「努力はするが…お前さん、こんな俺でいいの?」

「ギャハハ!銀ちゃん昔と全く同じこと言ってるアル!」

「そうですね、名前さんと付き合う前もずっとそんなこと言ってましたよ」

子供達が涙を浮かべて笑う様子に私も耐えられなくなって声を上げて笑った。ひとり記憶のない銀さんは不貞腐れたように「そんなに笑うことないだろ」とそっぽを向いてしまったが、そんな様子さえ愛しいのだから仕方ない。

「銀さん、私は銀さんが銀さんだから好きなんです。だから何も心配しないで」

「…おう」

そっぽを向いたまま返事をした銀さんは耳を真っ赤にして照れているようだった。
お茶を飲んでお菓子を食べてテレビを見て談笑しているうちに、時刻はすっかり夕方。今日は退院祝いに銀さんの好きなものをたんと作ってあげようと思い、私は席を立った。

「あ、僕も手伝いますよ」

「私も手伝うネ!」

「じゃあ新八くんは台所をお願い。神楽ちゃんは銀さんとおつかいに行ってきてくれない?」

「え、俺も?」

「はい。ここのお店でケーキ取ってきてほしいの。お金はもう払ってあるから受け取るだけで大丈夫」

「今日ケーキ食べられるアルか!?」

「銀さんの退院祝いだからね」

嬉しそうに銀さんの手を引く神楽ちゃん達を見送って、私は新八くんと共に台所へ向かった。

「それにしても驚きますよね」

「記憶のこと?」

「僕たちも最初目の当たりにしたときは怖くて。でもきっと銀さんのことだからすぐにもとに戻りますよ」

「そうだね。私ばっかり悲しんでいられないもんね。銀さんはもっと苦しんでるだろうから」

「あんなに好きだった名前さんの記憶だけ失くしてるんだから、記憶が戻ったとき相当ヘコみそうですもんね、あの人」

手際よく野菜を切り分けてくれる新八くんと話しながら銀さんのことを思う。いつでも私を心の底から大切に思って愛してくれる優しい人。私にとっても唯一無二の大切な人だから、彼のためにできることは全てしたいと思う。

「今日は銀さんの好きなものだけ作るよ」

「ケーキもあるんだから、きっと喜びますね」

「ふふ、そうだね」

この先何が起こっても、私は銀さんと共にこの子達の笑顔を守りたい。そのためにも銀さんの記憶が戻るように努力しなければと改めて心に誓った。


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