ーーーい、おいーーナマエ……ナマエ……!!!!!


じわりと目を開けると、見慣れない天井が見えた。屯所ではない。えっと…ここは、

「ナマエ!おい!」
「(あれ?土方くん…?)」
「俺が誰かわかるか!?」

名前を呼ぼうにも掠れた声は音にならなくて、声が出ないかわりに私は頷いた。痛いくらいに私の手を握りしめる土方くんの目からは初めて見る涙がこぼれた。

「(どうしたの?)」
「ばっかオメェ…何ヶ月寝てりゃ気がすむんだよ……っ!!!」

土方くんの言葉で今までの出来事を振り返って、理解した。あぁ、私帰ってきたんだ……

(こんなにもアッサリと、)


「特に異常もありませんから、数日中には退院できるように進めていきましょう」
「…ありがとうございます」

お医者さんにお礼をいって、駆けつけてくれた銀八と沖田くんの顔を見る。

「お前ェ…よくもまあ修学旅行台無しにしてくれたなァ。お陰で俺は毎日土方に睨まれるわ始末書書かされるわ大変だったんだぞコノヤロー。」
「う、ごめんなさい銀八…」
「無事でよかった。」

ポン、と頭を撫でられる。心から安堵したような銀八の優しい顔に胸がギュッと締め付けられた。病室を出て行く銀八の背中を見送ると、今度は沖田くんに話しかけられた。

「お前が寝てる間に卒業式も終わっちまいやしたぜィ?」
「え!マジですか」
「毎日毎日土方さんの辛気臭い顔見せられるこっちの身にもなれってんでィ。そんな生活も今日で終わりだろうがねィ」
「ご心配おかけしました……」

沖田くんは無言で私の頭を撫でて出て行った。卒業式まで終わってしまっただなんて、私は相当長い間眠っていたんだろう。

静かになった病室には私と土方くん二人きりだ。

「ごめんね、土方くん」
「何がだ?」
「心配かけちゃったことと…その、同じ大学に行く約束してたのに…私受験も出来なかった…」
「俺受験してねェから」
「え…?ってか、は!?!?」
「お前と一緒に行くって約束したろ。俺とお前は一年浪人だ」

どうしてこの人は…っ、何でこんなに優しいんだろう、

「おいおい泣くなよ」
「だって…!まさかそんな!土方くんの人生なのに、」
「俺の人生だから俺が決めたことだ。これから1年一緒に頑張るからな」
「はい……!」

私は溢れ出る涙をこらえることができないまま、思いっきり土方くんに抱きついた。土方くんも私を思いっきり抱きしめてくれた。

「あ、ちょっと待って、私ずっとお風呂入ってないんでしょ?臭くない…?」
「ちょっとな」
「うわ、最低」

……この際冷水でも構わないから髪を洗おうと密かに決意した。


prev | next