「それだけでいいのですか?」
『いいのです!お願いします!』
満面の笑みを浮かべ両腕を広げるなつめに、透は困惑しながらも尋ねる。それでも少女はにっと笑い先を促す。
彼女の希望通りにと、透はおどおどしながらもなつめをぎゅっと抱きしめる。
『へへっ、ありがとー!透くん。』
「これで喜んでいただけるならば…。」
『…うん、十分!』
蒼い瞳を細めて笑う少女。本心から喜んでいるのだろうことがよくわかる。それを見て透も安心したように微笑んだ。
「なら僕もー。」
『わっ…。』
突然背後より覆いかぶさる影に避けきれず、よろけるなつめだが、その人物によって抱えられていた。
「大丈夫ですか?」
『しーちゃん、何するのさ。』
「僕も祝おうと思ってvv」
詫びを入れない笑顔に、相変わらずだと呆れが先行する。
「何やってんだ!?紫呉!てめー!!」
そこへちょうど二階より降りてきたのは、現状を目にしぎょっとする夾だ。されるがままのなつめに対し、ここぞとばかりにぎゅっと抱きしめる紫呉は、にやにやと笑いながら夾を見やる。
「何って、見りゃわかるでしょう?抱きしめてるんですよvv」
「あァ!?殴るぞ!てめー!!」
『夾ちゃん、落ち着いて。』
「そうですよ!殴るなんて…っ。」
苦笑しながらも場を収めようとする透ですら、彼の嫉妬は目に見えて感じていた。
「この変態野郎を1発殴らねえと気がすまねえ…っ!!」
「夾くんったら妬いてるんですかー?なら君も抱きしめてあげたらいいじゃない。」
「はぁああぁ!!?」
『ほんと?』
「いやいやいや!!何言ってんだ!?おまえ!」
あっという間に丸め込まれてしまう単純なところは、彼の長所と言っていいのだろう。顔を真っ赤に慌てふためく夾に、透はくすっと笑みをこぼす。
なつめはそんな彼の心境を知らず、嬉しそうに両腕を広げた。
『はいっ。』
「んな顔で見られて…断れるわけねぇだろ。」
ぼそっと呟くその声は、彼女に届いているのだろうか。ふわりと微笑む少女を、夾は強引に引き寄せた。
『へへっ…ありがとー!』
「はいはい…。」
「なーんて言いながら、だいぶ緊張してるよねー。」
「うるせぇ!馬鹿犬!!!」
あまりの恥ずかしさから、パッと手を離す。嬉しそうに笑うなつめを見て、さらに赤面する夾はプイッとそっぽを向き、平静を装いながら冷蔵庫から牛乳を取り出す。
――ガラララ
「おっ、残すは王子様だけだね。」
「ちょうど帰って来られましたね。」
『あたしから行ってこよっと!』
「……ブッ!!?」
ぱたぱたと玄関へ走るなつめの言葉に、飲んでいた牛乳を吹き出す夾。「夾くん、汚いよー。」と笑う紫呉と、心配する透を置いて、夾は慌てて少女を追いかけた。
今にもそのまま飛びつこうとするなつめに、「待て待て待て!!!」と止めに入った。
「なつめ、ただいま。…馬鹿猫、うるさいぞ。」
『おかえりー。なんで待つの?』
「なんでって…なんでおまえもそんなことすんだよ!?」
きゃんきゃん吠える夾に対し、相変わらず冷めた視線を送る由希。なつめはあっけらかんとしたまま、『どーせならみんなにしてもらおうと思って。』と答える。
「何を?」
「知らんでいい!!」
「何、慌ててるんだよ。」
不思議そうに夾を見る由希。ぼっと顔を赤くする夾に対し、さらに不審がる。
そんな二人のやりとりに、なつめは嬉しそうに笑みを浮かべた。
『なら二人一気に…!!』
「…っうわ!?」
「おい…っ!!」
二人の首へその細い腕を回し、二人まとめて抱きしめるなつめ。困惑する由希と再度赤面する夾に、くくっと声を出して笑う。
『今の二人が好きだよ!』
「「はぁああっ!!?」」
『仲良しで。』
「仲良くねぇよ!!」
「仲良くない!!」
声を揃える二人。もちろんなつめは声をあげて笑った。
僕らの関係
(小さなやりとりさえ嬉しくて)
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