藉真の道場からの帰り道。今朝まで降っていた雪のおかげで、辺りは真っ白だ。現在夕方だというのに、そこに残っている雪。
歩くたびにそれを踏みつける音が耳まで届く。依然として、雲行きは怪しく、今にも降り出しそうではあった。
「はぁ…。」
息をつくと白い息が一瞬だけ現れる。
いつもの帰り道では、"彼女"も一緒なのだが、今日は珍しく用があるからと道場には来なかった。
学校でも一緒だったのに、すでに「会いたい。」と感じている自分に、彼女の存在の大きさを思い知る。
「寒…。」
ぽつりと独り言のように呟いたそれに、返事がくるとは全く思ってはいなかった。
『薄着だからだよぉ、今日は朝から寒かったでしょ?』
「……っ!?」
ぎょっとして振り向くと、そこには呆れた表情のなつめが立っていた。
「何やってんだ?こんなとこで…。」
思わずぽろりと出た疑問に、彼女は小さく笑って答える。
『夾ちゃん、迎えに来たんだよ。』
「……………は?」
『ちょっとしーちゃんからおつかい頼まれたから遅くなっちゃって。師匠のとこ行ったら、さっき帰ったって言われちゃってさぁ。散々だよ!』
言葉とは裏腹に楽しそうな声。彼女はいつもそうだ。
それにしても、何故彼女はわざわざ自分を迎えに来たのだろうか。
一つの疑問に思い立ったとき、それをも見透かしたように、鞄をごそごそと探り始める。目的の物を取り出すと、サクサクと足跡をつけながら駆け寄ってきた。
途端にふわりと香る彼女の匂いと温もり。
彼女の匂いは一瞬であったが、首元の温もりはそのままだ。
『夾ちゃんの今朝の服装寒そうだったからさ、帰りはもっと冷えちゃうと思って。』
そっと首元へ手を伸ばせば、ここ最近つけるのが面倒で家に置きっ放しだったマフラーが巻かれていた。なつめはふふっと笑うと、立ち尽くす夾の横を通り過ぎ、家へ向かって歩き出す。
『ほら、帰ろっ!』
「…おう。」
前を歩く彼女は時折雪を蹴りながら、嬉しそうに歩みを進めていく。さっきまで感じていた寒さは薄れ、ほかほかと温かさを感じるのは気のせいではないだろう。
もちろんなつめが巻いてくれたマフラーのおかげ、というのもあるが、それだけではない。
『今夜も雪が降りそうだねぇ…。』
そう呟きながらも、嬉しそうな彼女のおかげだろう。
ふとした時に、彼女は隣にいてくれる。まるでそれがあたりまえのように感じるのは、彼女に対する甘えなのかもしれない。
「滑るなよ…。」
先を歩く彼女に声をかければ、『大丈夫だよっ!』と返ってくる。
寒々とした帰り道が、こんなに温かく感じるのは君がいるから。
「明日も降んねえかな…。」
そうすればまた、彼女が迎えに来てくれるかもしれない。そんな淡い期待を胸に、夾は小さく微笑んだ。
Harmony of December
(僕の心に咲く花)
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