空には一面の星
のはずが、見上げる先には雲に覆われた真っ暗な空。今にも雨が降ってきそうだ。
『やっぱり無理みたいですね…』
仕事の途中にやにやと笑う室長の気遣いで、休憩をもらえた俺たちは自室から空を見ていた。
しかしハルが楽しみにしていた天の川だが、どうやらこの天気じゃ見えそうもない。
「残念だな。」
『はい…。彦星さんと織姫さんは今年も会えないんですね』
「今年も?」
尋ねると寂しそうな笑みを浮かべながら、去年も雨で会えなかったんだと教えてくれる。
どうやら本当に七夕は毎年楽しみにしているようだ。
『相思相愛になれて嬉しいのは、今の私は十分わかります…。』
嬉しそうに目を細め俺を見上げるハルに笑みを返す。
『幸せすぎて…なまけちゃって、会えなくなったら元もこもないですよ…ね。』
「……ハルはもう少し休んでもいいんだぞ?」
ふるふると首を横に動かすハルは、困ったように笑った。
『もし…絶対にないでしょうけど、彦星さんや織姫さんたちのように…リーバーさんと会えなくなったら……私、毎日泣いちゃいますから』
「……っ…」
『そうならないように…頑張らないと。』
最後は照れくさそうに笑う彼女。
この子はどれだけ俺を喜ばせてくれるんだろう。
ハルの言葉はいつも俺を有頂天に連れていってしまうから、困ったものだ。
『そう考えたら…幸せですね』
「…?」
俺のよれよれになった白衣を握りながら、ハルは桃色の瞳を真っ暗な空へと向ける。
『科学班の仕事は大変ですけど…、毎日一緒にいれるってことはとても幸せなことなんですね。』
「…君って子は、ほんと」
まったく心臓が持たない。この子は悪気なんてちっとも持ち合わせてなどいないだろう。
天然だから。
俺の気持ちもつゆしらず、彼女はその小さな手を空へと伸ばし小さく呟く。
『私ばっかり幸せになってる…。…織姫さんに分けてあげれないのかな?』
ただの一人言だったのだろう。普段話すときは必ずしも敬語だから。
「…ハル」
振り向く彼女をすっぽりと腕の中におさめる。
紳士的な行動も出来なければ、多くの知識を教えることも出来ない。強くもないし、これといって"彼氏"らしいことなど何も出来ていない。
そんな俺といて"幸せ"を感じてくれているハルがいとおしくて、"幸せ"で…。
「俺は幸せだよ…本当に」
『……リーバーさん?』
幸せのお裾分け
("二人分"には多すぎるから)
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