「寒くないかい?」
『サンジくん』
夜番をするハルのもとへ上ってきたサンジは、片手にトレイを手にしており、その上にはカップがふたつ並んでいる。
「この時季だからね。熱いのもおかしいと思って」
『ありがとう』
そのカップにはほどよい冷たさのカフェオレが入っていた。サンジはもうひとつのカップを傾け口をつける。
『夜の海ってプラネタリウムみたい…』
「上も下も一面真っ暗で、光を放つのは星と月だけだしね。」
「そういえば…」と夜空を見上げるサンジ。つられて顔をあげれば、彼の指差す先には一際星が連なっていた。
「今日は七夕だからな。天の川、綺麗に見えてよかったな。」
『…1年に一度、彦星がカササギの群れがつくった橋を渡って、大好きな織姫に逢いに行く。』
「お、よく知ってるね」
メインマストへ背を預け座り込むハルの言葉に振り向くと、彼女はピアスを触りながら呟く。
『前の世界(向こう)の仲間に教えてもらった。すごい物知りなやつがいたんだ。』
目を細め思い出すハルにサンジは困ったように笑った。
「ハルちゃんも逢いに行きたいかい?」
『…え』
「川の向こうの仲間に。」
そう問うサンジの視線は天の川に向いているようで、ハルの場所からは見えない。
『………』
何も答えられないハルにサンジは空を見上げたまま、声をあげて笑った。
「ごめんよ、困らせるつもりはなかったんだ。…おれがカササギになれたらよかったけどね。」
ぽんっと頭を撫でると監視台から降りようとするサンジ。
「……ハルちゃん?」
そんな彼の服をきゅっと握り制止するハルは、今は暗くて見えない蒼色の瞳をしっかりとサンジへ向けた。
『教団の仲間たちにはもちろん会いたい…』
「……うん」
『でも、今はそれ以上にみんなと…サンジくんと一緒にいたい』
「…………うん」
ハルの嘘のない素直な言葉に、優しく笑いかける。
『サンジくんはカササギじゃなくて、あたしにとっての織姫だよ』
「ははっ、ハルちゃんから逢いに来てくれるんだね」
『違う世界から来れたんだ。どこにだって逢いに行く』
頬を染めながら照れたように訴える彼女がいとおしくて、サンジは優しく抱きしめた。
星の波を越えて
("織姫"も悪くない)
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