▼ 02
殴り合いを繰り返すナツとジェラールに対し、ハルたちはお互い拳を振り合うも当てることはない。
なぜなら…
「これはオレたち流のフェアリーテイル式壮行会だ!!」
『……』
エドハルと拳を交えながらも、ハルは小さく息をのむ。
「フェアリーテイルを抜けるものには、3つの掟を伝えなきゃならねぇ…」
「…なっ」
目を見開くジェラールにナツはニヤリと笑い怒涛の攻撃を繰り返す。いつの間にか辺りからは、ジェラールを応援する声が絶え間無く響いていた。
「ひとつ!フェアリーテイルの不利益になる情報は生涯他言してはならないっ!!ふたーつ!!…がっ!?」
顔面を殴られたナツは、ここぞとばかり攻められる。
「過去の依頼者にみだりに接触し個人的な利益を生んではならない!!」
ナツの代わりに掟を口にするのはジェラール…ミストガン。
「みっつ!!例え道は違えど、強く力の限り生きなければならない!!」
殴り合う彼らの様子にだんだんと、スピードが落ちてくるハル。エドハルはどうしたのかと、心配そうに彼女を見やる。
「決して自らの命を小さなものとしてはならない。愛した友のことを…」
「生涯忘れてはならない…っ!」
―――ゴッ
お互いの頬に入ったパンチ。ナツは笑いながら倒れこむ。
「…届いたか?ギルドの精神…。また、会えるといいな…ミストガン!」
その途端、周囲から上がる歓声。ジェラール王子の勝利を祝うものだった。
ハルたちも動きをとめ、その場に膝まずく。エドハルは目をまるくして彼女を見下ろした。
ぽたぽたと地に落ちる雫。地を濡らすそれは紛れもない彼女の涙。
『ミストガン…』
小さな声にも関わらず、呼ばれた彼はゆっくりと振り返る。自身の妹へ視線を向けることなく、膝まずく少女を見下ろした。
『いままで、あ…ありがとぉ…っ!』
絞り出すような震える声に、表情は見えなくとも涙していることは明確だった。
「ハル…」
淡く光始める身体。魔力を体内に持つハルたちアースランドの人間は、アニマの逆展開により強制的にアースランドへと返されようとしているのだった。
『……ミストガンの妹はひとりで頑張りすぎるような馬鹿だから、…大切にしてあげなよ…っ!』
「……っ…」
「…ああ。おまえにそっくりだよ、ハル。」
宙へと浮かんでいくハルたちの身体。何事かと騒ぐ民を放って、エドハルは懸命に叫んだ。
「ありがとう…っ!!」
初めて見る彼女の心からの笑顔に、ハルは涙を拭いながら安心したようにふわりと微笑んだ。
「ハル!!!」
『アイス…っ!!』
アニマへ引き込まれる中、懸命にハルのもとへ向かおうとするアイス。ハルは笑顔で手を伸ばし、彼を抱きしめる。
「ご、ごめん…ハル。おれ…」
『おかえり…アイス!』
ふわりと笑うハルに、アイスはきょとんとしながらも、ゆっくりと笑みを浮かべた。
そしてゆっくりとエドラスへと向き合った。
『ばいばい…ハル、ミストガン…っ!』
辺りは静まり返る。ナツやハル、魔力を宿すものはもういない。ジェラールは民衆と向き合うと片手をあげて、高らかに言い放った。
「魔王ドラグニルはこの私が倒したぞ!魔力など無くても我々人間は生きていける!!」
響き渡る歓声に、これからのエドラスへの期待が感じとられる。
「……、…。」
「…久しぶりだな。」
「っ!!」
びくっと肩を震わせる。7年ぶりの再会に、どういった顔をしていいのかわからないハル。
「アースランドで同じ顔の人間と一緒にいたからか、久しぶりだという感じはしないな…。」
ふっと笑うジェラールに少女は、うつむきがちに答える。
「私は…兄様のような方など、他にいらっしゃらないので…っ」
「…悪かったな、置いて行って。」
「……っ…!」
兄の優しい声にぐっと唇を噛みしめる。だんだんと涙ぐむ瞳に、ジェラールは困ったように笑った。
「泣き虫はなおってないようだな…、ハル。」
「……兄様…っ!!」
彼の胸へと飛び込むハルは子どものように泣きじゃくる。
それを見ていたフェアリーテイルの仲間たちは、呆れたように笑いながらも、彼女の元へと駆け出したのだった。
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